愛猫も人間と同じように食べ過ぎが原因で糖尿病になることがあります。
愛猫を糖尿病から守るには糖尿病のことを知り、糖尿病にならないために予防すること、糖尿病になったら早めに適切な治療を受けることが肝心です。猫の糖尿病について一緒に勉強していきましょう。
そもそも、猫も糖尿病になるの?
生活習慣病である人間の2型糖尿病の発症者数は年々増えています。
糖尿病の怖いところは気づかないうちに体がむしばまれていき、糖尿病性網膜症や糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害といった糖尿病の三大合併症や動脈硬化症の進行により心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患が引き起こされることです。
人間ではメジャーな疾患の糖尿病ですが、猫も糖尿病になるのでしょうか?
実は、猫も糖尿病になります。猫の糖尿病は人間の2型糖尿病と似たもの、慢性膵炎によるもの、医原性糖尿病(ほかの病気の治療で用いている薬剤によるもの)の3タイプの糖尿病で猫の糖尿病全体の90%を占めています。
猫の糖尿病は中高年、高齢の猫に多く見られます。糖尿病になりやすい猫の品種が決まっているわけではなく、肥満の猫に多いようです。
猫の糖尿病、その症状とは?
人間の糖尿病の症状は初期の頃は、のどが渇く、水分をたくさん飲む、たくさん尿が出るなどの症状ですが、猫の糖尿病では以下のような症状がみられます。
- 水をよく飲む
- おしっこをたくさんする
- やせる
- 歩くときに踵(飛節)が地面についている(末梢神経障害がある場合)
- 急激にやせこける(削痩)
- 食欲低下
- 元気がなくなる
- 衰弱する
- 下痢
- 嘔吐
- 昏睡
- 白内障
猫の糖尿病の主症状としては多飲・多尿・体重減少が見られます。ケトアシドーシス(ケトン体が溜まり、体が酸性に傾く)となると、急にやせこけて元気がなくなり、嘔吐や下痢がみられるようになります。重篤な症状では昏睡となることもあり、すぐに治療が必要です。
猫が糖尿病性白内障となることは少ないとされています。猫は本来、「飛節」と呼ばれる人間の踵にあたる部分をあげてつま先立ちで歩いていますが、糖尿病により末梢神経が障害されると飛節を地面につけて歩くようになり、お尻をついて歩いているような歩き方をします。
猫が糖尿病になる原因
糖尿病はインスリンの量が不足すること、インスリンの効きが弱まること(インスリン抵抗性)によって高血糖状態が続き、様々な症状が見られます。
人間の糖尿病を原因別に分けると、肥満・食べ過ぎ・運動不足・ストレスなどの生活習慣によっておこる2型糖尿病、自己免疫やウイルスが関連して起こるとされている1型糖尿病、妊娠時に起こる妊娠糖尿病、その他、膵炎や内分泌疾患による糖尿病に分けられます。
猫の糖尿病の原因は膵炎、人間の2型糖尿病に似たもの、ほかの病気の治療のために使われている薬剤などが原因となって起こる医原性糖尿病の3タイプが猫の糖尿病全体の約90%を占めており、ほかにも以下の原因によって糖尿病を発症します。
膵炎による糖尿病
慢性膵炎によって膵臓の細胞が破壊されていき、機能低下することでインスリンの分泌量が不足して糖尿病となります。急性期に炎症を起こしているときはインスリンの作用が弱くなるインスリン抵抗性がみられます。
膵炎による糖尿病は糖尿病の猫の半数以上を占めるといわれています。膵炎の症状は、嘔吐や腹痛がはっきりとみられることはなく、元気がなくなったり食欲が落ちたりします。
2型糖尿病
人間の2型糖尿病と同じように内分泌疾患がないにも関わらず、インスリンの分泌低下やインスリン抵抗性がみられます。
次第にインスリンの分泌が低下してインスリン治療が必要となります。去勢した雄で肥満の猫が糖尿病になりやすいとされています。
医原性糖尿病
他の疾患の治療に用いる薬物の影響によって糖尿病となります。猫の場合は、喘息やアレルギー性皮膚炎などのアレルギー性疾患へのグルココルチコイドやプロゲステロンの投与によってインスリン抵抗性が生まれ、糖尿病となります。
下垂体性クッシング症候群
下垂体性クッシング症候群は脳の下垂体に腫瘍ができ、過剰に副腎皮質刺激ホルモンが分泌されることで様々な症状がみられます。副腎皮質ホルモンのグルココルチコイドが過剰に分泌され、インスリン抵抗性を示して糖尿病となります。
クッシング症候群では糖尿病と同じ水を多く飲む、尿がたくさん出る、血糖が高くなる、尿糖が陽性となる症状が初期に見られますが、インスリン注射を行っても血糖が下がらないのが特徴です。
進行すると毛が薄くなる、皮膚が薄くもろくなり、簡単に裂けてしまう、感染しやすい、筋肉が萎縮して立ち上がることができなくなる、お腹が膨れるなどの症状が見られるようになります。
軽症で薬が効く場合は症状も軽快しますが、重症で裂けた皮膚からの感染が良くならない場合や薬の効きが悪く糖尿病が進行するケースでは予後は悪くなります。
副腎腫瘍
副腎に腫瘍ができるとエストロゲン、プロゲステロンなどの性ホルモンが分泌されてインスリン抵抗性が強くなり、糖尿病を発症します。
若年性糖尿病
若年性の膵炎や膵臓の異形成などによってインスリンの分泌自体が障害されインスリン不足により糖尿病が起こります。
先端巨大症
先端巨大症は下垂体から成長ホルモンが過剰に分泌されることで体重増加、頭囲の拡大、下顎の突出、歯間の拡大などがみられる疾患です。成長ホルモンがインスリン抵抗性を起こし、糖尿病を発症します。
その他
感染症や悪性腫瘍、その他の疾患にかかり、猫にストレスがかかるとカテコールアミン、グルココルチコイドといったホルモンが分泌され、インスリン抵抗性を示すようになります。
炎症に関連する物質もインスリン抵抗性に関連し、重篤な状態であるほどインスリン抵抗性が強くなり、糖尿病を発症することがあります。
猫の糖尿病治療と費用
猫の糖尿病では人間の糖尿病で見られる腎症や白内障といった合併症が問題となることが少なく、血糖値を100~300mg/dlにコントロールして、末梢神経障害の合併症を防ぐこと、適正体重を保って症状の改善を図ることを行います。
クッシング症候群や副腎腫瘍などの原因となる疾患がある場合はその疾患の治療を行います。背景にある疾患の治療を行うことで血糖コントロールが良好となることもあります。
猫の糖尿病治療においては食事療法が重要であり、インスリン療法や経口血糖降下剤での治療が行われることもあります。
食事療法
適正な体重を維持して適度な筋肉と脂肪のついた体型を目指すために食事療法は必要です。食事は高たんぱく・低脂肪の糖尿病治療食を与えます。腎不全や膵炎アレルギー疾患がある場合にはそれぞれに適した専用の食事を与えます。
食事は1日3~4回食にして、一度にたくさん食べて食後の高血糖とならないように工夫します。
肥満の猫は減量することが大切ですが、高度の肥満の場合には一気に減量すると肝リピドーシスという肝機能障害を起こすことがあるので、徐々に減量するようにします。痩せている猫は繊維の多い食事は避けましょう。
インスリン療法
インスリン治療を始める前には猫を入院させて適切な食事とインスリン投与を行い、血糖値をグラフにして血糖曲線を作成します。
理想の血糖曲線に近づくようにインスリン製剤の種類と投与量を決定しますが、猫の場合は人や犬と比べてインスリンの作用時間が短く、ストレスによって血糖値が変動しやすいので厳密なコントロールは難しいとされています。
低血糖発作が起こらないように、目標の血糖値を決めてコントロールを行います。低血糖が起こるとふるえ、寝続ける、急に衰弱する、ふらついてうまく動けなくなる、昏睡、頭が傾くなどの症状が見られ、対応しなければ死に至ることもあります。
猫はインスリンの作用時間が短いことやストレスの影響を受けやすいこと、感染症などの合併症の影響により、低血糖の後に、短いと1時間程度で高血糖となるソモギー効果と呼ばれる偽りの高血糖となることがあります。
低血糖やソモギー効果の知識、血糖測定やインスリンの投与の仕方などを飼い主が学び、体重や飲水量、排尿・排便量、食欲、活気、尿糖などをチェックしながら自宅で治療を続け、定期的に病院で検査を行います。
薬物療法
糖尿病以外の疾患がなく、状態の安定した猫では経口血糖降下剤による治療が行われることもあります。しかし経口血糖降下剤による治療は、膵臓の機能を低下させて早ければ数か月で効かなくなくなってしまうので、猫の糖尿病治療はインスリン療法が主流となっています。
その他
糖尿病の猫は感染症を発症しやすく、発症した際には抗菌薬で治療を行います。
人間では食事療法と並んで運動療法も基本の治療となります。猫の場合も適度な運動は必要ですが、犬のように散歩をするという手段で運動を行うことはなかなか難しいでしょう。
猫の場合は飼い主と遊ぶ、複数の猫を飼って一緒に遊ばせるなどして運動する時間を持つことがおすすめです。急激な運動は低血糖発作を起こすこともあるので避けましょう。
治療費用
猫の糖尿病治療の費用は、初診時の初診費用、検査費用がかかります。インスリン治療が必要な場合は、適切なインスリン製剤の種類と必要なインスリン量を決めるために、入院または日帰り入院が必要となります。
動物病院は病院によって費用の設定が様々なので、かかる費用もまちまちですが、最初の数か月間は数十万円かかるともいわれています。
インスリン治療の方針が決まってからも、毎月のインスリン製剤や糖尿病治療食、定期受診に数万円かかります。
糖尿病を起こしている疾患や食事療法で血糖が良好となった場合にはインスリン治療が必要でなくなることもあります。
愛猫を糖尿病にしないために
猫は犬と比べて糖尿病になりやすいとされています。その原因として、もともと猫はネズミや小鳥などの小動物を餌として生きる動物であり、タンパク質と脂質を主な栄養分としています。
しかし、ペットとして買われている猫が食べているキャットフードには小麦やトウモロコシなどの炭水化物が多く含まれており、炭水化物の摂りすぎが糖尿病発症に関連しているのではと考えられています。
また、猫は元来、獲物を狩って食べる動物なので、獲物が長期間にわたってとれずに飢餓状態の時でもインスリン抵抗性(血糖値が下がりにくい)が高い体質を持っていると考えられています。
しかし、食事が欲しいときに食べられる環境で暮らすペットの猫では、インスリン抵抗性が高いことが、反対に血糖値が上がりやすい要因となっていると考えられています。
肥満の猫は糖尿病になりやすいことからも、猫の2型糖尿病を予防するには食べ過ぎ、肥満を防ぐことが大切といえるでしょう。
猫は高齢になると慢性腎不全を発症しやすくなりますが、糖尿病性腎症を発症することは少ないとされています。血糖コントロールが良好であれば状態が安定し(寛解)、食事療法を続けながら寿命まで愛猫と暮らすことも叶います。
まとめ
猫は糖尿病になりやすいですが、糖尿病を起こしている原因となる疾患を治療することや、食事療法と減量を実施することで寛解することもあります。
しかし、好き嫌いで治療食を食べてくれないことや、ストレスで血糖が上がりやすいこともあり、治療を行ってもなかなか血糖値が安定しないこともあります。
猫は糖尿病になりやすいということを知り、食べ過ぎ、肥満に注意して生活しましょう。また、定期的に動物病院で検診を受け、異常がみつかっても早めに対応できるようにしましょう。