「運動療法」は「食事療法」と並んで糖尿病治療の両翼です。二つセットで効果をより発揮します。なぜかといえば、糖尿病はエネルギー量の「摂取(食事)」と「消費(運動)」のバランスが崩れてしまう状態が長期間続いた結果として生じる病気だからです。
そして、その原因の1つは「運動不足」と考えられます。運動療法のポイントと注意点をみていきましょう。
運動不足と糖尿病の関係
近年の日本人の食生活は欧米化しており、エネルギーをとりすぎる傾向があり、さらに運動不足が加わるとインスリンの働きが徐々に悪くなってしまいます。
運動不足の人は、できるところからで構わないので「動く生活」に切り替えてください。階段を使うようにする、駅まで歩いていく……体を動かすことでインスリンの働きを悪くしていた内臓脂肪が減少してくると、血糖値を良好にコントロールすることができるようになります。
年代別にみる生活習慣の状況
厚生労働省は「平成25年度の国民健康・栄養調査」の中で年代別の生活習慣の調査を行っています。食事、身体活動・運動、喫煙、睡眠の状況について、性別・年齢別に見ると、60歳以上は良好な方が多く、逆に20歳代・30歳代では課題が見られています。
この調査で分かったことは、近年、運動を心がけているシニアは実に多く、運動不足の若者が増えているのが浮き彫りになっています。糖尿病予備軍が近年増え続けているのもうなずけます。
糖尿病の改善・予防に効果的な運動は?
運動には「有酸素運動」と「レジスタンス運動(無酸素運動)」の二つがあります。有酸素運動というのは、たくさんの酸素を体の中に取り入れながら行う運動のことです。
酸素を取りながら運動すると、インスリン抵抗性が改善されて体内のブドウ糖や中性脂肪が効率的に利用されるようになり、血糖コントロールをスムーズに進めることができます。
有酸素運動でおすすめはウォーキング!
有酸素運動には、「ウオーキング」「水中ウオーキング」「軽いジョギング」「水泳」「サイクリング」「縄跳び」など多くの種類がありますが、いずれも全身の筋肉を幅広く使うことができる運動ばかりです。
数多くある有酸素運動の中も、一番のおすすめはウオーキングです。特別な道具を必要とせずに時と場所を選ばずにできますので、年配の方から若者まで誰にでもおすすめできる運動です。
運動療法をスタートする前に
運動療法を始める前に行うことがあります。それは、安全のために主治医の健診を一度受けてください。糖尿病の運動療法は、「年齢」「体型」「日常の生活状況」などを細かく考慮しながら運動の内容を決めていきます。
糖尿病で以下の症状がある場合は運動に注意が必要
検査結果によっては、運動が制限される場合があります。日本糖尿病学会が考える運動療法を禁止、あるいは制限した方がよいのは次のようなケースです。
- 血糖コントロールが極めて悪い場合(空腹時血糖値が250mg/dl以上、あるいは尿ケトン体が陽性)だった人)
- 腎不全の状態にある場合(血清クレアチニンが男性は2.5mg/dl以上、女性は2.0mg/dl以上)
- 虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の疑いがある人
- 骨・関節疾患がある場合
- 急性の感染症にかかっている場合
- 糖尿病壊疽(えそ)をおこしている場合
- 高度の糖尿病自律神経障害がある場合
NEAT(ニート)って?
運動と一口に言っても強すぎる運動、苦しい運動はかえって逆効果です。「気持がよい」「いつまでも続く」有酸素運動が最も効果的です。Aさんにはちょうどよい運動しても、Bさんには強すぎてつらいということがあります。心地よくできる運動がその人に適した運動です。
最後に皆さん「NEAT(ニート)」という言葉をご存じでしょうか。ニートとは「Non-Exercise Activity Thermogenesis/非運動性活動熱産生」の頭文字で、「日常の生活活動で消費されるエネルギー」のことです。
元々はメタボ解消のために提唱されたものですが、このニートを増やすことで糖尿病をはじめとした慢性疾患の改善に役立つと言われています。NEATを増やすには、日常生活の中でこまめに動くことです。言い換えれば、あえて無駄な動きをすることがポイントです。
まとめ
運動は糖尿病の改善・予防に大切ですが、無理なく継続することが大切です。ウォーキングのような軽い有酸素運動や、日常生活で意識的に体を動かすことからスタートしてみてはどうでしょう?
糖尿病の治療だけでなく、体を動かすことが楽しくなることで気分がスッキリしますよ。継続して行うために楽しく、心の負担にならないように始めましょう!