糖尿病の患者さんに対する一般的なイメージとして、「汗をかきやすい」というものがあります。実際、「それほど暑くないのに、やたらと汗が出る」という症状に悩まれている糖尿病患者さんも多くいらっしゃいます。
しかしその反対に、「汗がかけない」という悩みをもつ患者さんも。実はこの相反する2つの悩みは、同じ原因から引き起こされる症状なのです。
一体どういうことなのでしょうか?糖尿病と汗の関係について詳しくみていきましょう。
糖尿病性神経障害で起こる汗のトラブル
糖尿病になると高血糖状態が続き、全身のさまざまな器官に負担がかかるようになります。全身に張り巡らされている神経も、糖尿病によってダメージを受ける器官のひとつ。「糖尿病性神経障害」は、「網膜症」や「腎症」と並んで糖尿病の3大合併症に数えられています。
3大合併症のなかでも糖尿病性神経障害は、わりと早期のうちから症状が現れる合併症です。影響を受けるのは主に、身体の末端まで細かく張り巡らされている末梢神経です。
末梢神経は、その働きによって「体性神経」「自律神経」に分類されます。以下、末梢神経の種類です。
- 体性神経・・・意思によって動かせる
- 運動神経・・・手足や指を動かす
- 知覚神経・・・触れたものの感触や痛みなどを感じる
- 自律神経・・・意思によって動かせない
- 内臓の働きや体温の調節などを無意識のうちに行っている
糖尿病患者さんがよく感じる汗の悩みは、この3つのうち無意識に体温調節を行う機能をもつ「自律神経」のトラブルから来るものなのです。
発汗異常が起こる原因は?
発汗異常による主な症状とは
人間の体は自律神経の働きで、周囲の環境に合わせたさまざまな調整が行われています。その自律神経がうまく働かなくなると、やたらと汗をかいたり、逆に全く汗をかけなくなったりする発汗異常が起こります。
運動や暑さで体温が上がった時、人間は汗をかくことで熱を外に逃がし、体温を下げます。ところが発汗異常で汗をかけなくなると、体温が上がりすぎてしまい、熱中症になるリスクが高まります。
逆に、それほど暑くないのに大汗をかいてしまうと、体温が下がりすぎてしまうことも。また、脱水症状の危険性が出てきます。
高血糖が発汗異常を引き起こす
糖尿病により高血糖の状態が続くと、血管だけでなく神経にもダメージを与えます。糖尿病が自律神経に影響を与えることで起こる合併症が「糖尿病性神経障害」です。そのひとつとして汗のコントロールが上手く行かない症状が現れることがあるのです。
糖尿病による自律神経障害を防ぐためには、血糖コントロールが有効です。また、すでに発汗異常などの自律神経障害が見られる場合でも、血糖値を安定させることで症状を改善できます。
汗をかく場所・ニオイも要チェック
発汗場所に変化はないか
糖尿病性神経障害によって起こる発汗異常は、ただ汗をかく量が変化するだけではありません。頭など汗をかきにくい部分の発汗量が増える、体の一部だけが異常に汗をかくといった症状も起こります。
汗のかき方が以前と変わったと感じる糖尿病患者さんは、糖尿病性神経障害を発症している可能性があります。汗をかく場所や発汗量についておかしいと思ったら早めに主治医に相談するようにしましょう。
汗のニオイに変化はないか
また、糖尿病で高血糖状態が続くと、汗の臭いが独特の甘酸っぱいものに変わってきます。
糖尿病でインスリンの働きが悪くなると、体はブドウ糖をエネルギー源として使えず、脂肪を分解して代替エネルギー源とするようになります。その時に作られるのが、臭いの原因となるケトン体。汗の臭いが変わってきたら、高血糖状態になっている可能性があります。
そのほかの症状がないか要チェック
そのほかに現れる糖尿病性神経障害の症状としては、頭痛・めまい・不眠症・便秘や下痢を繰り返すといった症状があります。汗のかき方が変わると同時に下記のような症状がないか確認しましょう。
他にも症状がある場合は早めに主治医に相談し、症状に合った治療をすることが重要です。
- しびれやめまい・神経痛
- 感覚が鈍くなる・感覚麻痺
- 下痢や便秘
- 立ちくらみ
- 手足の異常な冷え
症状を放置すると、症状が重くなったり傷に気づかずに細菌感染を起こすといったことになりかねません。少しでも異常に気づいたらすぐに受診するようにしましょう。
まとめ
糖尿病性神経障害による発汗異常は、糖尿病が進行しているサインのひとつ。患者さん本人にとって不快なだけでなく、熱中症になるリスクを高める・温度調節が難しくなるといった要因となります。
汗のかき方やかく場所が変わったといった変化が少しでも現れた場合、すぐにかかりつけ医の診察を受けるようにしましょう。その他の糖尿病性神経障害の症状が無いかを確認し、合併症を進行させないためにも早期治療をすることが重要ですよ。