脂質を摂り過ぎると生活習慣病を引き起こしやすくなるというのは、みなさんご存知のことと思います。その脂質の中でも「トランス脂肪酸」は健康への影響が大きいことが、近年の研究で解ってきました。
トランス脂肪酸とはどんなもので、どういった注意が必要なのでしょう。この機会に正しい知識を身につけて、体への悪影響のない食事を心がけてみませんか?
トランス脂肪酸とはどんなもの?
油に含まれる脂肪酸には大きく分けて、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2種類があります。脂肪酸の分子は炭素が繋がってできていますが、その繋がりかたによってタイプが違ってくるのです。
不飽和脂肪酸にも様々なタイプがあり、大きくシス型とトランス型に分類できます。このうちトランス型の不飽和脂肪酸をまとめて「トランス脂肪酸」と呼んでいるのです。
トランス脂肪酸は、油を食品に加工製造する過程で生まれます。トランス脂肪酸を多く含む食品としては、マーガリンやショートニングが挙げられます。マーガリンを使ったパンやドーナツ、ショートニングを使ったスナック菓子やケーキにもトランス脂肪酸が含まれています。
天然の不飽和脂肪酸は、通常はシス型しか存在しません。しかし、牛や羊といった反芻動物の胃の中では、微生物の働きによってトランス脂肪酸が作られます。そのため牛肉や牛乳の中には、ごく微量の天然トランス脂肪酸が含まれています。
糖尿病とトランス脂肪酸の複雑な関係
2000年代に入って、トランス脂肪酸による健康への影響が取り上げられるようになりました。トランス脂肪酸の摂取量が多いと、血液中の善玉コレステロール量が減って悪玉コレステロールが増えるという研究結果が発表されたのです。
血液中の悪玉コレステロールが増えると、動脈硬化を起こしやすくなり、心筋梗塞など心臓疾患のリスクが高まります。そして、糖尿病になると血糖値が高くなり、動脈硬化や心臓疾患といった合併症が起こりやすくなります。そのリスクをさらに高めてしまうのが悪玉コレステロール。ですから、糖尿病患者はトランス脂肪酸の摂り過ぎに注意が必要なのです。
またトランス脂肪酸を摂り過ぎると、血液中の脂質が過剰になる脂質異常症(高脂血症)の原因にもなります。その結果として肥満となり、連鎖的に糖尿病になってしまうリスクも高くなります。
トランス脂肪酸を制限している国もある
世界保健機関(WHO)では2003年に、「トランス脂肪酸の摂取量は、総エネルギー摂取量の1%未満とするべき」と勧告しました。それを受けて、加工食品に含まれるトランス脂肪酸量の表示義務を設けるといった規制を行う国も出ています。
しかし日本では特に、トランス脂肪酸を対象にした規制は行われていません。これは、日本人のトランス脂肪酸摂取量が、ほとんどの場合は目標値以下に収まっているからです。
成年日本人の平均摂取エネルギー量は1900kcalで、その1%はトランス脂肪酸でいうと1日当たり約2グラムに相当します。厚生労働省では、バランスのよい食事を心がければトランス脂肪酸の過剰摂取になる可能性は低いとしています。
ただ、脂質の多い食事を好む人ほどトランス脂肪酸の摂取量も多くなる傾向があります。またトランス脂肪酸のみを控えても、脂質の摂取量が多ければ動脈硬化や心臓疾患のリスクは高まってしまいます。
まとめ
脂質は体の細胞膜を作るために必要な成分で貴重なエネルギー源ですが、むやみに摂取を制限すると逆に健康を損なってしまうこともあり、トランス脂肪酸の摂り過ぎには注意が必要です。しかし、その1点に注目するあまり、食事のバランスが崩れてしまっては意味がありません。
様々な栄養素をバランスよく摂ることが、健康への悪影響を避ける一番の方法だといえます。自分の食事内容が気になる糖尿病患者は、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。