医療法人による糖尿病患者のためのコラム2021年2月24日【意外と知らない】糖尿病の医療費自己負担額軽減のコツ
糖尿病の毎月の自己負担額は、合併症の有無やインスリン治療をしているかどうかによりかなり変わってきます。毎月の負担となる糖尿病の医療費は、ジェネリック医薬品の利用とインスリン製剤や注入器の変更で軽減することが可能です。
今回は、糖尿病の医療費を軽減するためにはどのような方法があるのかを詳しくみていきましょう。
治療法別・糖尿病患者の自己負担額率
糖尿病の治療は、食事療法と運動療法が基本となります。食事療法と運動療法でも血糖コントロールの改善がみられない場合は薬物療法が行われます。
薬物療法では経口薬の血糖降下薬をいくつか組み合わせることやインスリン注射が行われます。血糖コントロールが悪化し、腎機能に悪影響が出るようになると人工透析や腎臓移植などの治療が必要となります。
合併症からみる糖尿病の医療費
厚生労働省の平成17年医療制度構造改革試案の参考資料中の政府管掌健康保険における健診・医療費データの分析結果では、平成15年の糖尿病患者一人当たりの医療費は合併症無しが24.7万円、合併症ありが35.7万円とあり、合併症がある場合は、合併症がない場合に比べて約10万円の医療費増となっています。
さらに、合併症が一つ増えるごとに一人当たりの医療費も高くなる傾向がみられます。(グラフ1)
グラフ1 糖尿病の合併症と医療費
参考資料:医療経済研究機構「政府管掌健康保険における医療費等に関する調査研究報告書」
合併症の数と医療費
平成14年の京都⼤学医学部附属病院に通院する糖尿病患者の外来医療費を調査した研究では、患者の1回あたりの外来医療費は合併症無しは13,046±7,568(Mean±SD)円、合併症1種類は16,453±10,698円、2種類は16,951±8,020円、3種類は21,736±14,293円、4種類30,822±16,148円でした。
1か月に1回の通院頻度であれば、3割負担で自己負担額は1か月約3,914円~9,247円となります。年間総医療費の診療報酬明細書の分析では、医療費の内訳は初再診料3%、指導管理料33%、投薬料37%、検査料24%で投薬量の占める割合が高くなっています。
治療法と医療費
治療別ごとの1回あたりの外来医療費は、食事療法群は11,424±6,740円、経口剤治療群は11,528±5,210円、経口剤・インスリン併用治療群は27,700±14,030円)で食事療法群<経口剤治療群<経口剤・インスリン併用治療群の順で1回あたりの外来医療費は高くなっています。
3割負担で1か月に1回の受診であれば、1か月の自己負担額は食事療法群で約3,247円、経口剤治療群で約3,458円、経口剤・インスリン併用治療群で約8,310円となります。
全体的にみればインスリン治療を併用している群の医療費が高くなっていますが、それぞれの群において個人差があり、例えば、同じような薬が処方されていても価格の異なる薬が処方されていると医療費にも差が生じてきます。
インスリン治療においては自己注射の種類や自己測定をしているか、していないかによっても点数が変わり、医療費の差が生じています。
では、どのようにすれば医療費の自己負担額を軽減出来るのでしょうか?各治療によって軽減できる額は変わってきますが、多くの方が取り入れやすい自己負担額を軽減できる方法をみていきましょう。
参考資料1:厚生労働省 平成17年医療制度構造改革試案
参考資料2:医療経済研究機構「政府管掌健康保険における医療費等に関する調査研究報告書」
参考資料3:2型糖尿病における外来医療費の研究―医療改革が糖尿病科に与える影響
参考資料4:糖尿病患者および透析患者の直接非医療費とQOLの研究
医療費を軽減する方法①ジェネリック医薬品の利用
ジェネリック医薬品とは後発医薬品のことで、先発医薬品と同一の成分を同一量含んでいて、効果・効能も同一の薬品です。先発医薬品の特許が切れた後に製造・販売されるので、先発医薬品に比べて薬価が安く、医療費を抑えられるという利点があります。
糖尿病の治療薬のビグアナイド薬の先発医薬品のメトグルコ錠500mgとジェネリック医薬品のメトホルミン塩酸塩錠500mgMT「JG」とを比べた場合、メトグルコ錠500mgの1錠の薬価が16.70円、メトホルミン塩酸塩錠500mgMT「JG」(日本ジェネリック)の薬価が1錠9.90円で、1錠につき6.8円の差があります。
1錠あたりの薬価は6.8円と少額ですが、1日2錠服用するとすれば、メトグルコ錠500mgは1か月間(30日間)で1,002円、メトホルミン塩酸塩錠500mgMT「JG」は594円となり、その差額は408円となります。
窓口負担が3割負担の場合は1か月の薬代の自己負担額が123円変わります。1年間で比べてみるとジェネリック医薬品のメトホルミン塩酸塩錠500mgMT「JG」では4,964円安くなり、3割負担で1,489円の差がみられます。
1錠の薬価 | 1日(2錠)の薬価 | 1か月(30日間)の薬価(2錠/日) | 1年間(365日)の薬価(2錠/日) | |
先発医薬品 | 16.70円 | 33.4円 | 1,002円 | 12,191円 |
ジェネリック医薬品 | 9.90円 | 19.8円 | 594円 | 7,227円 |
差額 | 6.8円 | 13.6円 | 408円 | 4,964円 |
表1 先発医薬品とジェネリック医薬品の薬剤費比較
3割負担の場合1か月(30日間)の薬代 | 3割負担の場合1年間(365日)の薬代 | |
先発医薬品 | 301円 | 3,657円 |
ジェネリック医薬品 | 178円 | 2,168円 |
差額 | 123円 | 1,489円 |
表2 先発医薬品とジェネリック医薬品の自己負担額の比較(3割負担の場合)
糖尿病の治療の場合、何種類かの薬を合わせて飲むことも多く薬代にかかる費用もばかになりません。先発医薬品からジェネリック医薬品に変更することで、人によっては毎月の薬の自己負担額を大幅にカットできるでしょう。
医療費を軽減する方法②インスリン製剤の種類・注入器の変更
インスリン注射の治療を行っている人の場合、実はインスリン製剤の種類や注入器の変更で自己負担額が軽減できる可能性があります。
インスリン製剤は作用によって超速効型、速効型、時効型溶解、中間型、混合型があります。注入器には、インスリン製剤と注入器が一体となった使い捨てタイプのプレフィルド/キット製剤、ペン型注入器にカートリッジ製剤をセットして使うタイプのカートリッジ製剤、専用の注射器で吸って使うタイプのバイアル製剤があります。このうちバイアル製剤は主に病院で使⽤されており、在宅⾃⼰注射では多くの場合プレフィルド/キット製剤かカートリッジ製剤が⽤いられます。(図1)
図1 インスリン製剤の剤形
同じ超速効型インスリン製剤のノボラピッド注でもプレフィルド/キット製剤のノボラピッド注フレックスタッチ300単位/3mLは薬価2,385円、カートリッジ製剤のノボラピッド注ペンフィル300単位/3mlは1,669円、バイアル製剤のノボラピッド注100単位/mLは415円(300単位換算で1,245円) です。
剤形 | プレフィルド/キット製剤 | カートリッジ製剤 | バイアル製剤 |
製品名 | ノボラピッド注フレックスタッチ300単位/3mL | ノボラピッド注ペンフィル300単位/3ml | ノボラピッド注100単位/mL |
薬価 | 2,385円 | 1,669円 | 415円(300単位/3ml:1,245円) |
表3 インスリン製剤の剤形での薬価比較
時効型溶解インスリン製剤のプレフィルド/キット製剤では、先発医薬品のランタス注ソロスター(サノフィ)のジェネリック医薬品として、インスリングラルギンBS注ミリオペン「リリー」(日本イーライリリー)、インスリングラルギンBS注キット「FFP」(富士フイルムファーマ)がありますが、それぞれ薬価はランタス2,069円、リリー1,612円、FFP1,528円と価格差があります。(表4)
インスリン製剤 | ランタス注ソロスター | リリー | FFP |
(先発) | (ジェネリック) | (ジェネリック) | |
薬価 | 2,069円 | 1,612円 | 1,528円 |
表4 インスリン製剤の先発医薬品とジェネリック医薬品との薬価比較
個人との相性や主治医の意向などもあると思いますが、インスリン製剤を先発医薬品からジェネリック医薬品に変更することや注入器の種類の変更を行うことで、自己負担額が軽減できることもあります。
まとめ
先発医薬品からジェネリック医薬品への変更は薬局で声を掛けられることもあり、広く認知されていますが、インスリン製剤や注入器の変更で自己負担額の軽減ができることはあまり知られていません。知らなかった人は一度主治医に相談し、活用してみてはいかがでしょうか。
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