歯周病は、歯を支える骨や組織が破壊される病気で、歯槽膿漏とも呼ばれます。一方、糖尿病は、血糖値が慢性的に高くなる病気です。一見無関係に思える2つの病気ですが、深い相互関係にあることをご存知でしょうか。
この記事では、歯周病と糖尿病の相互作用の仕組みと糖尿病が歯周病を進行しやすくする仕組み、歯周病の治療が血糖コントロールに与えるメリットをお伝えします。
歯周病と糖尿病の関係が注目される理由と相互作用の仕組み
歯周病と糖尿病は、一方の病気がもう一方の病気を悪化させる双方向の相互作用があります。歯周病は、歯と歯ぐきの隙間（歯周ポケット）に入り込んだ細菌が出す毒素や、対抗しようとする身体の免疫反応によって炎症が起こる病気です。慢性的な炎症は、全身に影響を及ぼします。
一方、糖尿病はインスリンというホルモンの働きが悪くなることで血糖値が慢性的に高くなる状態です。インスリンは、血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませてエネルギーに変える働きをしていますが、この働きが阻害されると血糖値が下がりにくくなります。
歯周病と糖尿病に共通している点は、どちらも慢性炎症を起こすという点です。歯周病が進行すると、口の中のサイトカインなどの炎症性物質が血管を介して全身を巡ります。炎症性物質は、脂肪細胞などに作用してインスリンの働きを妨げる作用があります。インスリンが効きにくい状態（インスリン抵抗性）を引き起こし、血糖値が上がりやすくなります。
糖尿病があると歯周病が進行しやすくなるメカニズム
糖尿病の方は、糖尿病でない人と比較して重度の歯周炎のリスクが約3倍高いことが示されています。なぜ糖尿病があると歯周病が進行しやすいのでしょうか。考えられる理由は、免疫機能の低下、血流の低下、有害物質の生成です。
免疫機能の低下
糖尿病があると歯周病が悪化しやすい理由として、免疫機能の低下が挙げられます。高血糖状態が続くと白血球の働きが弱まり、歯周病菌が繁殖しやすくなります。
血流の低下
糖尿病では血管がもろくなり、歯ぐきの血流も悪化しがちです。血流が低下すると、組織の修復や炎症の回復が遅れ、歯周病が進行しやすくなります。
糖尿病の合併症の一つが、細い血管が詰まったり硬くなったりする障害です。歯ぐきの中の細い血管の血流も同じように悪くなると、歯ぐきの細胞に栄養や酸素が十分に届かずに老廃物が溜まりやすくなります。歯周組織の抵抗力が低下して傷の治りも悪くなるため、歯周病の進行につながるのです。
有害物質の生成
体内のブドウ糖が多い状態が続くと有害物質が生成されます。生成された有害物質は、歯周組織にも蓄積し、炎症を引き起こす細胞を活性化させて歯周病の炎症をさらに強めます。
歯周病治療が血糖コントロールに与えるメリット
歯周病治療は血糖コントロールへの悪影響を抑えることが期待できます。
歯周病治療の目的は、歯ぐきの炎症を抑えて歯周病の進行を予防することです。炎症が治まると、全身に流れる炎症性物質の量が減少します。炎症性物質が減ることで、インスリンの働きが妨げられにくくなり、血糖値が安定しやすくなります。
歯科医院で行われる歯周病治療は、歯周病菌が潜む歯の表面や歯周ポケット内の歯垢・歯石を除去する基本治療や、重度の歯周病に対する外科的処置などです。歯周病の治療を行うことで、糖尿病の指標となるHbA1cの値が改善することが確認されています。また、改善効果は、少なくとも3か月間持続することも報告されています。
まとめ
歯周病と糖尿病は、単に併発しやすいというだけでなく、どちらも慢性炎症を引き起こすことで互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。糖尿病のある方にとって、歯周病の進行は血糖コントロールを悪化させる要因の一つです。
しかし、歯周病を積極的に治療し、口腔内の炎症を軽減させることで、全身のインスリン抵抗性が改善し、血糖コントロールの安定が期待できます。糖尿病の診断を受けている方はもちろん、血糖値が高めだと指摘されている方も、口腔内の健康状態に意識を向けることが重要です。定期的な歯科医院でのクリーニングや検診を受け、口腔内の健康維持を通して全身の健康を守っていきましょう。
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