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医療法人による糖尿病患者のためのコラム2022年2月8日【いざという時のために】糖尿病患者さん必須の災害対策とポイント

日本列島は火山帯の上に位置し、地震の多い国として知られています。また、毎年夏から秋にかけては、大きな台風もやってきます。日本のどこに住んでいても、絶対に災害に遭わないということはありません。

災害が起こった時に備えて、どのようなことが起こりえるのかを想定し備えることが重要です。特に「病院にすぐに行くことができない」「インスリン注射が足りない」といったことも考慮しておく必要があります。

災害による糖尿病への影響をできる限り少なくするためには、普段からどんな準備をしておけば良いのでしょうか?詳しくみていきましょう。

被災時に考えられる深刻な状況

糖尿病と災害

大地震などの災害が起こると、日常生活は一変します。電気・ガス・水道といったライフラインは寸断され、食事すら満足に摂れない状況にもなりえます。被災した時の生活は、健康な人にとってすら過酷なものです。

糖尿病患者さんは毎日の生活を通し、食事療法・運動療法が必要です。さらに、投薬治療やインスリン注射を行っている患者さんも多くいます。そんな日常生活での負担が大きい糖尿病患者さんが被災してしまうと、健康な人よりも深刻な状況に置かれるだろうことは想像がつくでしょう。

まずは災害に遭遇した場合、どのようなことが起こりえるのか・災害に備えて準備しておきたいことを順番にみていきましょう。

災害時ポイント1:治療に必要なインスリンや薬剤が手に入らない

災害が起こると、病院や薬局も被災します。すると、糖尿病の治療に必要な薬剤やインスリン製剤が手に入りにくくなります。かろうじて薬剤の在庫が無事だったとしても、必要な患者さんに渡せる状況ではなくなる可能性も充分にあり得ます。

またインスリン注射を行う場合は、製剤以外に注射器や注射針、消毒のためのアルコールや脱脂綿などが必要です。そのすべてが揃っていないと、安全かつ確実にインスリン注射を行うことができなくなってしまいます。

災害時には、道路や鉄道などの交通手段も寸断されてしまいます。すると、被災地域外から薬剤を届けてもらうために道路や鉄道の復旧を待地必要があり時間が掛かります。投薬やインスリン注射ができなくなると、糖尿病患者さんの状態はあっという間に悪化します。糖尿病の進行度合いにもよりますが、早ければ翌日にも命の危険に晒されてしまいます。

災害時ポイント2:食事の管理がしにくい

災害が起こると、普段と同様の食事を摂ることが難しくなる可能性があります。避難所などで食料の配給を受けるにしても、いつ・どんなものが食べられるかは、その時になってみなければ分かりません。

糖尿病の食事療法では、毎回の食事ごとに栄養素やカロリーを計算して摂取量をコントロールします。また糖尿病の治療には、規則正しい食事が欠かせません。ところが、次はいつ食事ができるか分からない状態では、そういった食事のコントロールができなくなってしまいます。

災害時の食料事情は、糖尿病患者さんにとってかなりハイリスクなのです。

災害時ポイント3:普段の生活とは異なる運動・ストレスが負担に

糖尿病と災害時のポイント

災害時には、家屋や建物の倒壊が起こったり帰宅難民になる可能性があります。救助・支援活動をしなければならない場合や、出先で被災した場合は、長時間歩いて帰宅しなければならなくなることも。

そういった普段の生活からは考えられない運動や労働を長時間続けると、糖尿病患者さんは体内のブドウ糖が不足して低血糖状態に陥りやすくなります。

普段ならブドウ糖などの補食で血糖をコントロールしますが、災害時には当然その補食も手に入りにくくなります。糖尿病患者さんが低血糖状態のまま放置すると、意識の混濁が起こり、やがて昏睡状態に陥ります。

さらに、普段の生活とは大きく異なることで心身ともに過剰なストレスがかかりやすい状態になります。ストレス・過剰な運動量で糖尿病の持病を悪化させやすくなるのです。

災害時ポイント4:”糖尿病”という病気の状態が理解されにくい

糖尿病と上手く付き合ってくためには、普段の生活からさまざまな注意が必要です。避難所で生活する場合でも、食事・運動・服薬などの配慮を必要とします。

ところが糖尿病の患者さんは、体調が急変しない限り周囲の人に理解してもらいにくい場合もあります。特に災害が起こり周囲も混沌とした状況になると、持病があることを訴えても受け入れてもらえない・優先してもらえないことも充分にあり得ます。

健康な人と見分けがつかないことからも、病状の悪化につながるケースが少なくありません。

災害に備えて糖尿病の方に準備してほしいこと

災害が起こった場合、食料が定期的に手に入るようになるまでは3日から1週間程度かかります。

必要な薬剤が入手できるようになるまでには、2週間から1ヶ月はかかると思っておいたほうが良いでしょう。糖尿病患者さんはそれまでの期間をしのぐための準備を、個人個人でしておかなければなりません。

災害に備えておくべきものは以下になります。

  • 非常食1週間分
  • 水1週間分(1日分2リットルで計算)
  • 常用薬の予備2週間分
  • 注射器と消毒綿
  • 血糖測定器
  • お薬手帳や糖尿病手帳、保険証のコピー
  • ウェットテッシュ
  • 発熱時の冷却シート

一般的な非常用持ち出し袋に加えて、これらのものを用意しておきましょう。

災害用の準備で気をつけること

経口薬は常温でもある程度の期間保存ができますが、温度変化や太陽光に弱いのがインスリン製剤。西日の当たる部屋などに置いておくと、変質して効果がなくなってしまいます。インスリン製剤の保存期間は、短いもので1ヶ月です。非常用持ち出し袋の中に入れっぱなしにしていては、いざ必要になった時に使用期限が切れてしまっている場合も。

非常用持ち出し袋に入れている製剤を2週間ごとに入れ替えるなど、常に使用期限まで余裕のある製剤を持ち出せるようにしておきましょう。注射器や注射針は、大きな衝撃を与えると破損して使えなくなってしまいます。丈夫なケースに入れるといった対策もとっておきましょう。

避難生活で糖尿病の方が特に注意したいこと

糖尿病と災害時の生活

食事は糖尿病悪化を防ぐ自己管理を

災害が起こった直後の時期は、避難所などで配給される食料のほとんどが、おにぎり・あんぱん・カップ麺といった高炭水化物。

「せっかく配ってくれたものだから」「次にいつ食事ができるか分からないから」といった理由で全部食べてしまうと、エネルギー過剰で高血糖になってしまうことがあります。

配られた食料のカロリーをしっかり計算して、多いと思った時には残すことも必要です。実際、2016年熊本地震では避難所によっては食料過多が起こり配布される食料の量に偏りがありました。持病である糖尿病の悪化を防止するために、自己管理が何よりも重要になります。

水分はこまめに摂る

避難所では、水の配給が十分でないこともあります。また、トイレに行く回数を少なくしたいと、無意識に水分摂取を控えてしまうことも。

しかし、血液が高血糖状態になると浸透圧も高くなり、体内の水分を排出しようとする働きが起こります。そのため糖尿病の患者さんは、脱水症状に陥りやすいのです。なるべくこまめに水分をとって、脱水症状を防ぎましょう。

エコノミー症候群に気をつけて

ほとんどの避難所はスペースにあまり余裕がなく、長時間同じ姿勢をとっていなければいけないこともあります。

しかし、6時間以上動かないでいると下肢の血液の流れが悪くなり、血栓ができやすくなります。その血栓が血液の流れに乗って肺まで運ばれると、肺の血管に詰まって呼吸困難を起こします。

いわゆるエコノミークラス症候群です。高血糖状態だと血栓ができやすくなるので、こまめに体を動かして予防しましょう。

まとめ

災害の発生直後は医療機関も、即座に対処が必要な重傷者や重篤な入院患者さんの対応に追われます。そのため、意識がしっかりしていて自分で動ける人への対応は後回しになってしまい持病のある人は自己管理が何より大切になります。糖尿病患者さんはまず、他人に頼らず生活をコントロールする準備を整えておきましょう。

しかしどんなに気をつけていても、高血糖や低血糖で周囲の人に助けてもらわなければいけないこともあります。万が一災害に遭ったときは、周囲の人に糖尿病であることや考え得るリスクの説明をして、糖尿病に対する理解を求めましょう。

周囲の人に糖尿病の持病があること・低血糖にならないように気をつけなければいけないことを必ず知らせることも重要です。災害時に起こりえる事態をしっかりと理解し、普段から備えるようにしてください。

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