五十肩は、中高年によく見られる症状で、肩の痛みや動きの制限を引き起こします。五十肩は一般的には50歳前後で起こる肩の痛みという認識が一般的ですが、糖尿病の関連が報告されています。糖尿病と五十肩の関係と糖尿病を悪化させないための対策について説明しています。
五十肩とは
五十肩は中高年に多く見られる肩関節の痛みや運動制限など、肩の症状の総称です。症状としては、肩を動かしたときや夜間睡眠中の肩の痛みが主に見られます。肩を動かすと痛みが出るため、手を上に挙げたり、服を着たり、髪をとかしたりなどの動作が行いにくくなります。また、肩を動かすと痛みが出るため、動かす機会が減ることで、肩の動きが悪くなることもあります。
五十肩は肩関節周囲炎とも呼ばれるように、肩関節の関節を包む組織(関節包)や関節の滑りを良くする組織(滑液包)、腱などの肩関節周囲の組織が炎症を起こした状態です。加齢に伴い肩関節周囲の腱板などが変性して炎症を起こしやすくなることが原因と考えられています。
自然に症状が軽減することもありますが、関節が癒着すると肩の動きがさらに悪くなります。動きの制限がある場合は、無理やり動かさずに重力に従った状態で肩を動かして、肩関節の可動域を広げる運動などを行います。
糖尿病だと五十肩になりやすい
五十肩の発症率は米国においては人口の約2~5%と推定されていますが、糖尿病のある人の五十肩の発症率は約10~35%であり、一般と比べて高い傾向にあります。1)
また、糖尿病のある人が五十肩を発症する可能性は糖尿病のない人に比べて3.69倍高いという報告もあり、糖尿病と五十肩との関連が報告されています。2)
糖尿病だと五十肩になりやすい要因としては、高血糖状態が続くことによって、タンパク質が糖化されて結合組織の性質が変わり、関節周囲の組織が硬くなることが挙げられます。また、糖尿病による微細な血管や神経の損傷も、筋骨格系へ影響を与えて五十肩を合併する要因になると考えられています。3)
1)Sara M. Sarasua et al. The epidemiology and etiology of adhesive capsulitis in the U.S. Medicare population. BMC Musculoskeletal Disorders volume 22, Article number: 828 (2021)
2)Brett Paul Dyer et al. Diabetes as a risk factor for the onset of frozen shoulder: a systematic review and meta-analysis. BMJ Open. 2023 Jan 4;13(1):e062377.
3)Rachel Peterson Kim et al. Musculoskeletal Complications of Diabetes Mellitus. Clin Diabetes 2001;19(3):132–135
糖尿病を悪化させないためにできること
糖尿病は一度なると進行していく病気です。悪化すると、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症の三大合併症を発症して、視力の低下、足のしびれや痛み、腎機能障害などの症状が見られます。合併症が進行すると、失明や壊疽による足の切断、慢性腎不となり人工透析となることもあります。
また、動脈硬化が進行して脳や心臓の血管が詰まることで、脳血管障害のリスクが高まります。糖尿病を悪化させないための取り組みとして、米国糖尿病協会(ADA)のガイドラインでは、2型糖尿病予防にはライフスタイルを変えることが重要であるとされています。具体的な方法は以下の通りです。4)
肥満の場合は減量する
- 初期体重の7%減量し、減量した体重を維持する
- 初期体重に応じた必要なカロリーから500~1000カロリーを減らした食事の摂取(栄養バランスのとれた低カロリーの食事)
- 週に150分以上の中強度の身体活動(速歩きなど)を行う
肥満の場合の減量は2型糖尿病の発症リスクを低減させますが、減量目標を達成できなくても、週に150分以上の身体活動を行うことで、2型糖尿病の発症リスクを44%減少できると報告されています。4)
また、日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド2022-2023」では、糖尿病を改善する運動療法として次の内容が推奨されています。5)
- ウォーキング・水泳などの有酸素運動と腹筋・スクワットなどのレジスタンス運動を組み合わせる(それぞれ単独で行うよりも改善がみられる)
- 「ややきつい」「楽である」程度の中等度の運動強度を目安にする
- 有酸素運動は週に150分以上、週3回以上(運動をしない日が2日間以上続かないようにする)
- レジスタンス運動は週に2~3回行う
運動を始める前には主治医に相談した上で、個人の体力や健康状態に合わせて運動量を調整し、運動中の血糖コントロールや低血糖の対策も考えておく必要があります。
4)American Diabetes Association Professional Practice Committee 3. Prevention or Delay of Diabetes and Associated Comorbidities: Standards of Care in Diabetes—2024
5)Hamman RF, Wing RR, Edelstein SL, et al. Effect of weight loss with lifestyle intervention on risk of diabetes. Diabetes Care 2006;29:2102–2107
まとめ
五十肩はその名のとおり、中高年に多くみられ、肩の痛みなどの症状が出ます。糖尿病の人は五十肩になりやすいことが報告されています。その要因としては、糖尿病による血管や神経の障害の影響やタンパク質の糖化によって肩周囲の組織が硬くなることが考えられています。糖尿病の予防や改善には、肥満の場合は減量する、速歩きなどの中強度の運動を週150分以上行う、低カロリーの食事をとるなどのライフスタイルが重要です。個人に合わせた調整が必要ですので、これらに取り組む際には主治医に相談してから行いましょう。