花粉症の治療に用いる薬の中には、ステロイドが含まれているものがあります。ステロイド剤は高血糖の副作用をもたらし、糖尿病になるリスクがあります。
また、糖尿病患者の方がステロイドの薬を服用すると、糖尿病の症状が悪化するリスクが高くなります。今回は、花粉症の治療薬に含まれるステロイドにはどのようなものがあり、どのような副作用があるのかステロイドと糖尿病の関係についてみていきましょう。
花粉症に用いるステロイド剤とは
花粉症はアレルゲンとなる花粉によるアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎を起こし、くしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみ、なみだ目、鼻のムズムズする感じなどの症状が見られます。
花粉症の症状が起こる仕組み
まずは花粉症の起こる仕組みを簡単にみていきましょう。
アレルゲンである花粉が鼻や目の粘膜についたときに、異物を体内から追い出そうとしてリンパ球がIgE抗体をつくります。IgE抗体が過剰につくられると、再び花粉が体内へと侵入してきたときに肥満細胞とIgE抗体が結合して肥満細胞が活動し、ヒスタミン、ロイコトリエンなどの化学物質が放出されます。
放出される化学物質のはたらきによってくしゃみや鼻水、目のかゆみ、目の充血、なみだ目などの症状がでます。
花粉症の薬物療法
くしゃみや鼻水、目のかゆみ、目の充血、なみだ目などの症状の軽減を図るために、対症療法として薬物療法が多く選択されます。症状に応じて、第二世代抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、化学伝達物質遊離抑制薬、鼻噴霧用ステロイド薬、点鼻用血管収縮薬、経口ステロイド薬などが選択されます。
なかでもステロイド剤は、腫れや赤みなどの炎症を抑える作用やアレルギーを抑える作用があり、鼻づまりの症状や目の充血、白目の腫れなどの症状の緩和に用いられます。
鼻づまりの症状には、鼻に直接霧状の薬を噴射する点鼻薬の鼻噴霧用ステロイド薬が用いられます。より強い鼻づまりの症状には、全身に作用する経口ステロイド薬が用いられることもあります。
目のかゆみや赤み、白目の腫れなどには目薬として点眼ステロイド薬が用いられます。
副作用も多いステロイド剤
ステロイド剤はアレルギーを抑える作用や炎症を抑える作用の効果が強い反面、副作用も強く現れます。
ステロイドは腎臓の上部にある副腎という臓器から分泌されており、副腎皮質ホルモン、糖質コルチコイドとも呼ばれます。ステロイド剤は副腎皮質ホルモンを人工的に取り入れるための薬です。
本来、身体が作り出しているホルモンを人工的に投与するので、ステロイド剤を少量、短期間服用する場合はそれほど副作用の心配はありませんが、長期間服用する場合は副作用に注意する必要があります。
花粉症の治療の場合、経口薬のステロイド剤の使用期間は2週間が目安期間となっています。ステロイドには以下のような副作用がみられます。
高血糖
副腎皮質ホルモンは筋肉でのインスリンの働きを抑え、インスリンの分泌自体も抑えます。糖を筋細胞へと取り込む働きを弱め、肝臓のグリコーゲンを血糖に変える働きを持つグルカゴンの分泌も増やすので、血糖値が上がりやすくなります。
ステロイド剤を長期間継続する場合は、高血糖となり糖尿病を誘発することもあります。また、糖尿病の方では血糖コントロールが悪くなる可能性があります。
高血圧
ステロイド剤を開始してしばらくすると、血圧の上昇がみられます。ステロイド剤の量を減らすと血圧は元に戻ることが多くなります。
胃・十二指腸潰瘍
ステロイド剤の長期の服用により、胃や十二指腸に潰瘍を生じることや再発することがみられます。
感染症
感染症を発症しやすくなり、感染症を起こすと治りにくくなります。
脂質異常症
コレステロールが上昇しやすくなり、中性脂肪が増えやすくなります。
他にも骨粗しょう症、食欲増大、満月顔貌(ムーンフェイス)、肥満(顔や首回り、胴体部分など中心部の死亡が増え、手足の脂肪が少なくなる)、白内障・緑内障、不眠、気分の高揚や落ち込み、筋力低下、骨壊死症(大腿骨頭壊死など)、生理不順、肌荒れ、にきび、抜け毛(頭髪)、体毛が濃くなるなどの副作用がみられます。
長期間ステロイド剤を服用すると、身体の中の副腎皮質ホルモンが作られなくなります。長期間服用しているステロイド剤を急にやめてしまうと、副腎皮質ホルモン量の低下により低血糖、ショック、関節痛、倦怠感、筋肉痛、発熱、嘔吐、下痢などの離脱症状がみられます。
参照リンク1:厚生労働省 平成22年度リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト 第5章
参照リンク2:薬剤性高血糖 山本剛史 平野勉 昭和学士会誌 第75巻 第4号
経口薬「セレスタミン」には多量のステロイドが配合されている
花粉症の薬物治療で用いられるステロイド剤の点鼻薬は、鼻粘膜の局所にのみ噴射して用いるので、比較的副作用は少ないとされています。
一方、経口薬としてステロイド剤を使用する場合、血液中に溶けて全身に作用するので、副作用に注意が必要です。花粉症の症状が重い場合は、経口薬のセレスタミンが処方されることがあります。
セレスタミンにはステロイドである「ベタメタゾン」と抗ヒスタミン薬が含まれており、抗ヒスタミン薬に比べて症状の改善効果が高く見られます。
ステロイドは作用時間によって短時間型、中時間型、長時間型に分類され、「ベタメタゾン」は長時間型に分類されます。短時間型のヒドロコルチゾンの抗炎症作用を1としたとき、ベタメタゾンの作用は25~30倍とされます。(表1)
セレスタミン1錠中にベタメタゾン0.25mgが含まれており、プレドニゾロンに換算すると2.5mg相当となります。ベタメタゾンの作用時間は36~54時間と長く、(表1)セレスタミンを長期間服用し続けると高血糖を誘発するリスクが高くなるので注意が必要です。
ステロイド | 血中半減期(時間) | 生物学的半減期(時間) | 糖質コルチコイド作用 | 同等力価投与量(mg) |
コルチゾン | 1.2~1.5 | 8~12 | 0.8 | 25 |
ヒドロコルチゾン | 1.2~1.5 | 8~12 | 1 | 20 |
プレドニゾロン | 2.5~3.3 | 12~36 | 4 | 5 |
メチルプレドニゾロン | 2.8~3.3 | 12~36 | 5 | 4 |
デキサメタゾン | 3.5~5.0 | 36~54 | 25~30 | 0.5 |
ベタメタゾン | 3.3~5.0 | 36~54 | 25~30 | 0.5 |
出典:薬剤性高血糖 山本剛史 平野勉 昭和学士会誌 第75巻
ステロイド剤は糖尿病患者にも影響があるので注意!
ステロイド剤を長期間服用することにより、高血糖の状態となり、糖尿病が誘発されることもあります。大量のステロイドを投与する必要のある場合、ステロイド投与期間にインスリンを同時に投与して高血糖を防ぐ治療が同時に行われることもあります。
花粉症の治療で用いられるステロイドの点鼻薬や点眼薬は、血液中への成分の移行が少なく副作用は少ないとされています。また、ステロイド経口薬を投与する場合でも、血糖値の範囲が正常な方であれば、服薬量・服薬期間を守ればステロイド投薬によって糖尿病を発症することはほとんどありません。
しかし、もともと高血糖の方や糖尿病患者の方が、ステロイドの経口薬を服用すると血糖コントロール不良となり、症状が悪化したり糖尿病を発症する恐れがあります。ステロイドの注射薬も副作用が高いとされているので注意が必要です。
まとめ
花粉症で受診した際、糖尿病を誘発する恐れもあるステロイド剤には注意が必要です。特に糖尿病患者の方は、血糖コントロールが不良となり、症状が悪化するリスクが高いので、花粉症で受診した際には必ず持病について医師に伝えるようにしましょう。