糖尿病になると様々な合併症が引き起こされ、治療を生涯にわたって続けていかなければなりません。糖尿病の三大合併症である神経障害、網膜症、腎障害、動脈硬化は男女ともにみられます。
では、糖尿病の患者数は男性と女性、どちらの方が多いのでしょうか。男女どちらが糖尿病になりやすいのでしょうか。糖尿病の男女差について詳しく見ていきましょう。
糖尿病患者数、予備軍の人数
厚生労働省の平成26年患者調査によると糖尿病患者数(継続的に医療を受けている者)は316万6,000人(男性176万8,000人、女性140万1,000人)で、平成23年の調査から男性28万1,000人、女性18万6,000人、総数46万6,000人増加しています。(表1 平成23年・平成26年糖尿病患者数 参照)
表1 平成23年・平成26年糖尿病患者数
出典:厚生労働省平成23年患者調査
出典:平成26年患者調査
平成28年の国民健康・栄養調査結果の概要によると、ヘモグロビンA1c値が6.5%以上、または糖尿病治療が有と回答した「糖尿病が強く疑われる者」の推計人数は約1,000万人、ヘモグロビンA1c値が6.0%~6.5%未満の者である「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数も約1,000万人とされています。
平成24年の推計人数は「糖尿病が強く疑われる者」は約950万人、「糖尿病の可能性を否定できない者」は約1,100万人であり、「糖尿病が強く疑われる者」は約50万人増加し、「糖尿病の可能性を否定できない者」は約100万人減少しています。
「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」を合わせた糖尿病患者と糖尿病予備軍の数を合わせると平成28年は約2,000万人であり、平成24年の2,050万人と比べると約50万人減少しています。
しかし、「糖尿病が強く疑われる者」の推計人数は平成9年以降増加しており、両者を合わせた糖尿病患者及び予備軍の人数は平成9年の1,370万人と比べると約630万人増加しています。(グラフ1 「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数 参照)
グラフ1 「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数
出典:平成 28 年国民健康・栄養調査結果の概要
男性の糖尿病患者の割合
厚生労働省の平成17年・平成20年・平成23年・平成26年の患者調査をみてみると、平成17年は「132万3,000人、女性114万7,000人」、平成20年は「男性131万2,000人、女性106万1,000人」、平成23年は「男性148万7,000人、女性121万5,000人」、平成26年は「176万8,000人、女性140万1,000人」と男性の糖尿病患者の方が女性よりも20~30万人近く多いことが分かります。(表1 糖尿病の患者数 参照)
総数 | 男 | 女 | |
平成17年 | 246万9,000人 | 132万3,000人 | 114万7,000人 |
平成20年 | 237万1,000人 | 131万2,000人 | 106万1,000人 |
平成23年 | 270万人 | 148万7,000人 | 121万5,000人 |
平成26年 | 316万6,000人 | 176万8,000人 | 140万1,000人 |
出典:厚生労働省 平成20年患者調査
出典:平成23年患者調査
また、厚生労働省の平成14年労働者健康状況調査結果の概況によると、持病で糖尿病があると回答した男性は12.6%、女性1.8%、平成19年の同じ調査では男性12.3%、女性2.9%と糖尿病の持病があると回答した労働者は女性よりも男性で多いことが分かります。(表2 糖尿病の持病があると回答した労働者の割合 参照)
総数 | 男性 | 女性 | |
平成14年 | 8.9% | 12.6% | 1.8% |
平成19年 | 8.9% | 12.3% | 2.9% |
表2 糖尿病の持病があると回答した労働者の割合
出典:厚生労働省 平成14年労働者健康状況調査結果の概況
労働者健康状況調査結果では糖尿病の持病があると回答した男性と女性との差がかなり大きく、自己申告による回答であることから恥ずかしさなどの理由から申告しない女性もいるのではという推察もなされています。
平成28年国民健康・栄養調査の概況の「糖尿病が強く疑われる者」の性別ごとの年代別の割合を見てみると、男性は50代以降の割合が多く、女性では60代以降の割合が多いことが分かります。
労働者の調査では60歳以下の対象者が多いと予測され、中高年の男性の糖尿病の持病がある方が多いことが影響していることも考えられます。(表3 「糖尿病が強く疑われる者」の性別ごとの年代の割合 参照)
20-29 歳 | 30-39 歳 | 40-49 歳 | 50-59 歳 | 60-69 歳 | 70 歳以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 0.0 | 1.3 | 3.8 | 12.6 | 21.8 | 23.2 |
女性 | 1.2 | 0.7 | 1.8 | 6.1 | 12.0 | 16 |
表3 「糖尿病が強く疑われる者」の性別ごとの年代の割合
出典:厚生労働省 平成28年国民健康・栄養調査結果の概要
日本の2型糖尿病の発病率は、女性よりも男性の方が高いことが統計的に示されています。その理由としては、2型糖尿病を起こす原因の一つとして挙げられる肥満が関係しています。
厚生労働省の平成28年国民健康・栄養調査結果の概要によると、肥満者の割合は女性20.6%に対し、男性31.3%で女性よりも男性で肥満者の割合が多く、糖尿病になりやすい要因を持っている割合が高いことが分かります。(グラフ1 肥満者の割合 参照)
グラフ1 肥満者の割合
出典:厚生労働省 平成28年国民健康・栄養調査結果の概要
また、肥満のタイプも腹囲に脂肪がつくタイプの内臓脂肪型肥満でインスリンの働きが悪くなること(インスリン抵抗性)がみられ、糖尿病の発症リスクが高まります。この内臓脂肪型肥満は男性に多く見られる肥満タイプであることも関係していると言えます。
女性ホルモンであるエストロゲンはインスリン感受性を高めるので、女性は男性に比べてもともとインスリンが効きやすい体質であることも関係しています。
内臓脂肪から分泌され、エネルギーの消費を促して肥満を防ぐ働きを持つレプチンや、インスリンの感受性を高めるアディポネクチンといったホルモンも、男性よりも女性でより多く分泌されることがわかっています。
女性の糖尿病患者の割合
日本では、2型糖尿病が女性よりも男性に多く見られるのに対し、1型糖尿病は男性よりも女性に多く見られます。
1型糖尿病発症の要因は自己免疫や遺伝、ウイルスなどの関連が言われていますが、はっきりとは解明されておらず、どのような人がなりやすいかもわかっていません。
2型糖尿病の発症に関しては、男性よりも女性の方が少なく、女性の方が男性よりも肥満者の割合が少ないこと(グラフ1 肥満者の割合 参照)、女性ホルモンがインスリンを効きやすくする働きがあること、インスリンの働きを高めるホルモンの分泌が男性よりも多いことが影響しています。
しかし、女性は妊娠・出産・閉経など、女性ホルモンの分泌の変化に合わせて血糖値が変動します。
妊娠時にはインスリン抵抗性が高まり、インスリンが効きにくくなります。インスリン抵抗性が高まることに合わせて、妊娠時は自然にインスリンの分泌が増えますが、インスリン分泌が不足した場合には糖尿病を発症するリスクが高くなります。
また、女性ホルモンのエストロゲンは40歳頃から分泌が低下しだし、閉経にともなって欠乏します。閉経すると、インスリンの分泌が低下し、インスリンが効きにくくなって血糖値が不安定になりやすくなります。
閉経後、加齢による肥満や運動不足などの要因も加わると、2型糖尿病を発症するリスクが高くなります。
結局、なりやすいのは男性?女性?
2型糖尿病に関していえば、日本人では女性よりも男性の方が糖尿病になりやすいという統計がありますが、女性だから糖尿病になりにくいということではなく、家族の方に糖尿病がいて、肥満、運動不足、加齢、女性では閉経の要因が加わることで、男性でも女性でも糖尿病を発症しやすくなります。
特に男性は内臓脂肪型肥満がみられやすい中高年以上、女性は女性ホルモンの分泌が欠乏し、インスリン感受性の変化や肥満、運動不足がみられる閉経後に注意が必要です。
まとめ
2型糖尿病は男性、女性に関わらず、糖尿病の方が家族にいること、肥満、運動不足、加齢、ストレスなどの要因で糖尿病は発症します。
反対に考えれば、適正体重を保ち、運動習慣を持つことは2型糖尿病の予防となります。
男女ともに糖尿病発症のリスクが高くなる中高年以上に肥満や運動不足とならないように、若いうちから栄養バランスの整った食事を規則正しくとり、運動習慣を持つ生活を継続していくことが大切です。