糖尿病患者は熱中症に要注意!熱中症・合併症とその対策まとめ

糖尿病の基礎知識
糖尿病患者は熱中症に要注意!熱中症・合併症とその対策まとめ

毎年夏になると、テレビや雑誌で熱中症の話題をよく目にするようになります。

実は、糖尿病患者は健康な人よりも熱中症になる可能性が高いのです。しかも糖尿病患者が熱中症になると、合併症の危険も増してしまいます。それはどうしてなのでしょうか?

熱中症になりやすい理由やその対策など、糖尿病患者が夏場に気をつけておきたいことをまとめてみました。

糖尿病患者にとって夏はアブナイ!

糖尿病は、インスリンの働きが悪くなることで起こる病気です。インスリンが働かなくなると、全身の細胞がエネルギーとなるブドウ糖を十分に取り込めなくなります。その結果、余ったブドウ糖が血液中にあふれ出し、高血糖になってしまうのです。

高血糖状態になると、体は血液中のブドウ糖を排出しようとします。ブドウ糖は尿に混じって排出されるので、血糖値が高くなるほど尿の量は増えていきます。すると、体に必要な水分まで排出されて、脱水症状が起こってしまいます。

つまり、糖尿病患者は夏場でなくても脱水症状を起こしやすいのです。

夏になると、汗をかく量も増えます。普段から水分が不足しがちなのに、さらに汗となって体から水分が排出されるわけですから、脱水症状になる危険も飛躍的にアップします。

汗は蒸発するときに体の熱を奪って、体温を下げるという働きがあります。しかし脱水症状になると、体はそれ以上水分を失わないよう汗をストップしてしまいます。

すると体温が次第に上がって、体のさまざまな部分に障害が起きてきます。これが熱中症の正体です。

糖尿病患者が熱中症を起こしやすい理由

糖尿病患者が熱中症を起こしやすい理由は、水分が不足しがちなことだけではありません。

糖尿病の合併症のひとつに、糖尿病神経障害があります。糖尿病神経障害は、体の各部の神経がうまく働かなくなる病気です。発汗をコントロールしている自律神経がうまく働かないと、暑くても汗をかけなくなってしまうことがあります。すると体温調節ができなくなり、熱中症になりやすくなります。

さらに、糖尿病神経障害には、体の感覚が鈍くなる症状も。糖尿病神経障害で暑さや喉の渇きを感じにくかったため、気づいたときには脱水症状から熱中症になってしまうこともあります。

また、糖尿病患者の約半数は高血圧の合併症があるといわれています。高血圧の食事療法で塩分を控えめにしている人は、さらに注意が必要です。

汗や尿として排出される水分には、塩分やミネラルが含まれています。にもかかわらず水分しか補給しないでいると、体内のミネラルバランスが崩れてしまいます。すると、やはり熱中症が起こりやすくなるのです。

糖尿病患者さんと熱中症

糖尿病治療の「SGLT2阻害薬」にも脱水の副作用が

2014年、今までの糖尿病治療薬とはまったく違うタイプの「SGLT2阻害薬」が登場しました。このSGLT2阻害薬を服用していると、脱水症状を起こしやすくなる副作用があります。

SGLT2阻害薬は、余っている糖分を尿と一緒に積極的に排出させる薬です。服用中は尿の量が増えるので、こまめに水分補給をする必要があります。

現在のところ、6種類のSGLT2阻害薬が発売されています。

  • スーグラ錠
  • フォシーガ錠
  • ルセフィ錠
  • アプルウェイ錠
  • カナグル錠
  • ジャディアンス錠

脱水症状から起こる熱中症の合併症

熱中症は、重症度によって1度から3度までに分類されています。1度では立ちくらみやめまいを感じ、足が攣る・筋肉痛といった症状があります。2度は、頭痛・吐き気・嘔吐・倦怠感などがあります。3度になると意識障害やけいれんが起こり、体温が下がらないと命の危険もあります。

では、3度にならなければ大丈夫なのかというと、そんなことはありません。1度や2度の熱中症でも、合併症を起こして死に至ることもあるのです。

脱水状態になると血液中の水分が少なくなり、いわゆるネバネバ血になります。すると血栓ができて、脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなるのです。

とくに糖尿病患者は動脈硬化を起こしていることも多いので、健康な人よりも血管が詰まりやすい状態だといえます。脱水症状が起きてから対処するのではなく、まず脱水症状にならないよう注意したほうがいいでしょう。

その他、気をつけたい熱中症の合併症

低ナトリウム血症

脱水症状を起こさないようにと、過剰に水分を摂り過ぎると「低ナトリウム血症」になることがあります。汗や尿と一緒に塩分が排出され、血液中の塩分濃度が極端に低くなってしまった状態です。症状としては頭痛・吐き気・倦怠感などが現れ、重症になると昏睡状態に陥ることもあります。

糖尿病ケトアシドーシス

脱水症状で血液中の水分が失われ、血糖値が急激に高くなると「糖尿病ケトアシドーシス(酸血症)」を引き起こすことがあります。高血糖によってインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が疲弊してしまい、インスリンが不足して一時的に糖尿病が悪化すると考えると分かりやすいかもしれません。

インスリン不足により、体の細胞はエネルギーとなるブドウ糖を取り込めなくなります。すると飢餓状態に陥った体は、脂肪を分解してエネルギーにしようとします。このときに排出されるケトン体という物質によって、血液が酸性に傾いてしまうのです。

症状としては喉の渇き・悪心・嘔吐・腹痛などで、重症化すると血圧の低下や意識障害が起こります。1型糖尿病の人はケトアシドーシスを起こしやすいので、十分に注意する必要があります。

高血糖高浸透圧症候群

脱水症状によって血糖値が高くなりすぎた状態を、高浸透圧症といいます。その状態が続くと、血液の濃度を薄めるために内臓や脳から水分が奪われてしまいます。これが「高血糖高浸透圧症候群」です。

2型糖尿病の人がかかりやすく、数日かけて少しずつ悪化していくという特徴があります。症状としては喉の渇き・悪心・嘔吐・倦怠感・意識障害などがあり、命に関わる事態になることも。そのため、すぐに医師の診察を受ける必要があります。

糖尿病患者が熱中症を起こさないために

熱中症のほとんどは脱水症状から起こります。熱中症を予防するにはまず、脱水症状を起こさないようにすることです。

ポイントは2つ。「暑い場所を避けること」と「水分をしっかり補給すること」です。

糖尿病治療では運動療法も重要ですが、夏場の炎天下で無理に運動をしても効果は上がりません。それどころか熱中症や合併症を引き起こして、さらに病状が悪化してしまう可能性もあります。夏場に運動療法を行う場合は、日差しの強い野外での運動は避けておいたほうがいいでしょう。

ウォーキングなど野外で行う場合には、なるべく気温の低い早朝や夜間にするといった工夫が必要です。服装も熱がこもりにくい風通しのよいものを選び、帽子で直射日光を避けましょう。

糖尿病患者さんと水分補給

屋内での熱中症に注意

熱中症は室内でも起きます。節電のためにエアコンではなく扇風機を愛用している方もいらっしゃると思いますが、室温が30度を超えると扇風機では追いつきません。それどころか室温35度を超えると、扇風機の風が熱中症の原因になってしまうことすらあります。

扇風機の風を涼しく感じるのは、体温で暖められた体の周囲の空気を吹き飛ばしてくれるからです。同時に汗の蒸発を助けて、気化熱で体温を下げるという効果もあります。ところが35度を超えると、体の表面温度よりも熱い風が当たることになり、逆に体温を上げてしまうのです。

あまりにも気温が高いときには、エアコンを使って室温を下げることも大事です。できれば室温は28度以下、湿度は70%以下になるように調整しましょう。

糖尿病患者は暑さに対する感覚が鈍っていることがあります。体感での温度調節ではなく、温度計や湿度計を見て環境を整えたほうがいいでしょう。

「湿球黒球温度(WBGT)」を活用しよう

熱中症の発症には、気温だけではなく湿度も大きく関係しています。同じ気温でも、湿度が高い日のほうが熱中症が起きやすくなるのです。

その理由は、汗が蒸発しにくくなるから。いくら汗をかいても、蒸発して気化熱を奪っていってくれないと体温は下がりません。

気温と湿度以外に、太陽の光によって生まれる輻射熱も熱中症の発生に関係してきます。この気温・湿度・輻射熱を合わせた暑さ指数が「湿球黒球温度(WBGT)」です。

熱中症の発生のしやすさをWBGTの値で見ると、21度以下が安全・21~25度が注意・25~28度が警戒、28~31度は厳重警戒・31度以上が危険と分類されます。

水分の取り方のポイント

熱中症の予防として水分を補給するなら、一番効果が上がりやすい摂りかたをしたいものです。

まず、何を飲んだらいいのかというと、ごく普通のお茶や水で構いません。コーヒー・紅茶・緑茶・ウーロン茶などカフェインが含まれているものには、ごく弱い利尿作用があります。でも、水分吸収量のほうが上回るので、そこは気にしなくても大丈夫です。

避けたいのはスポーツ飲料です。スポーツ飲料には多量の糖分が含まれているため、糖尿病患者が飲むと糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群を引き起こすことがあります。ゼロカロリーと表示してあるものでも、まったくカロリーがないわけではありません。というのも、法律的には100ミリリットルあたり5キロカロリー以下なら「ゼロカロリー」と表示できるからです。

飲みかたとしては、喉の渇きを感じてから飲むのでは遅いと思っておきましょう。また、一気に大量の水分を摂ると、胃液が薄まって胃に負担をかけてしまいます。同じように冷たすぎる飲み物も、体温を下げる効果はあっても体に負担となります。

体温を下げる効果と吸収されやすさを考えると、10~15度くらいの温度の飲み物がいいでしょう。それを30分ごとにコップ1杯くらいのペースで飲むのが、熱中症予防には一番効果的といえます。

夏場は食べ物にも注意。控えたほうがいいものは?

夏場は食欲が落ちるため、さっぱりとして食べやすいそうめんや冷やし中華が人気です。しかし、こういった冷たい麺類は食べやすいだけに量を過ごしてしまいがち。ほとんどが炭水化物なので、血糖値が上がりやすい食べ物といえます。

血糖値が急激に上がると脱水症状を起こすきっかけになってしまいます。食べるときには量を控えめにする、副菜を積極的に摂るようにするなど、食べかたに気をつけましょう。

夏場にはアイスクリームなどの冷たい甘味が欲しくなることもあります。冷菓は冷たさで甘みを感じにくいのですが、想像以上に多量の糖分が含まれています。糖尿病患者にとっては危険な食べ物といっていいでしょう。どうしても食べたい場合には、カロリーが低めのかき氷にするといった工夫が必要です。

注目されている経口補水液はどうなの?

最近では、脱水症状の対策して経口補水液が注目されています。点滴と同じ成分なので体に吸収されやすいという飲料ですが、これを水代わりに飲むのはお薦めできません。

経口補水液はスポーツ飲料より糖分は少ないのですが、塩分が多くなっています。そのため多量に摂ると塩分過多になってしまうのです。あくまで脱水症状が起こってしまったときの治療飲料と考えておきましょう。

まとめ

糖尿病患者にとって、夏は注意が必要な季節ということはお分かりいただけたでしょうか?

ただ、どんなに対策をしていても脱水症状が起こってしまうこともあります。もし脱水症状が現れたら、水分を十分に補給して涼しい場所でゆっくり休んでください。

熱中症の対策についても、少しでも不安があったらかかりつけ医師に相談してみてください。熱中症の合併症には、すぐに病院で治療を受けなければ危険なものもあります。頭痛や悪心といった症状があったら自己判断せず、すぐ医師の診察を受けるほうが賢明です。

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