【認知症とも深い関わり】増える高齢者の糖尿病とケアポイントとは

糖尿病の基礎知識
【認知症とも深い関わり】増える高齢者の糖尿病とケアポイントとは

世界保健機関(WHO)の2016年版「世界保健統計」よると、日本人男性の平均寿命が「80.5歳」、女性は「86.8歳」と発表しています。男女とも過去最高を更新しており、世界的にみても日本は誇るべき長寿国家です。

その一方、高齢者の糖尿病が近年増えています。さらには糖尿病に伴い認知症を患うケースも増えており、高齢者の糖尿病と認知症が関係していることも分かってきています。

今回は、高齢者の糖尿病・認知症について深く掘り下げていきましょう。

年齢が高くなるほど糖尿病になりやすい

生活習慣の乱れから糖尿病を発病する人が増えていますが、ここ数年の傾向を見るとシニア層の糖尿病患者が増えています。70歳以上では、男性女性ともに約4割が「糖尿病」または「予備軍」と言われています。男女ともに年齢が上がれば上がるほど糖尿病の割合が増えているのです。

平成22年(2010年)に実施された調査では、70歳以上の男性は「22.4%」女性は「16.5%」。つまり、70歳以上の5人に1人は、糖尿病が強く疑われるという結果が報告されています。また、60歳以上で糖尿病のある人は、血糖値(ヘモグロビンA1c※)が高いほど合併症のリスクがぐっと高くなります。

※ヘモグロビンA1c・・・血管の中でブドウ糖とヘモグロビンが結合したもので、糖尿病の診断基準のひとつ

高齢者ならではの糖尿病の特徴

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高齢者の糖尿病患者が増える中、高齢者の糖尿病では病気の治療以外にも健康面での配慮が必要になります。そこで「日本糖尿病学会」と「日本老年医学会」は、2016年5月に高齢者が目指すべき血糖管理の目標を新たに定めより細かく設定しました。

健康管理のための指標となるHbA1c目標値を高齢者とそれ以外の糖尿病患者とで分けました。具体的には以下の通りです。

高齢者では、健康状態や使用している薬の種類に応じて、目標とするヘモグロビンA1cの値を、「7.0%未満」「7.5%未満」「8.0%未満」に分類。一般成人の目標は、ヘモグロビンA1c7.0%未満なので高齢者では一般成人と比べて目標が低めかつ細かく設定されていることが分かります。

高齢者の目標値が若干緩めな理由は、低血糖を避けながら治療する必要があるからです。最近はこの「高齢者の糖尿病治療では低血糖を避けて治療する」という考え方が主流となっています。

なぜ高齢者では低血糖を避ける必要があるのでしょう?まずはその理由からみていきましょう。

理由1:高齢者では低血糖が死亡リスクにつながる

60歳以上で糖尿病のある人を対象に「ヘモグロビンAlcの値」と「合併症を起こす危険度」の関係を調べると、ヘモグロビンA1cの値が高いほど合併症の危険度は高くなります。

しかしその一方で「ヘモグロビンA1cの値」と「死亡の危険性」の関係をみるとヘモグロビンA1cの低い方がむしろ死亡の危険度は高まっていたのです。つまり、高齢者では血糖値を低くして合併症を引き起こさないようにするだけでなく低血糖による死亡リスクについても考える必要があります。

理由2:高齢者の低血糖は見過ごされがち

死亡・合併症のリスクだけではありません。高齢者は低血糖を起こしやすく、かつ低血糖の特徴的な症状が現れにくくなるため、一般的に対処が遅くなりがちです。

さらに、自覚症状を「年のせい」として見過ごしたり家族へ遠慮したりと、治療への意欲が極めて低いことが特徴に挙げられます。

このように、高齢者の糖尿病では低血糖を起こすリスクに配慮しながら治療を行う必要があるのです。

出典元:「The Diabetes and Aging Study」

高齢者は低血糖を起こさないことが最優先

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つまり、高齢者の体は低血糖を起こしすい状態と考えてください。薬を分解する肝臓の機能や、薬を排出する腎臓の働きが低下しているため、血糖値を下げる薬が想定以上に効いてしまいます。

さらに、高齢者は低血糖が重くなりやすいと言われています。加齢で自律神経の働きや認知機能が低下していると、低血糖の症状を自覚しにくかったり、低血糖が起きてもそれを人に訴えられない場合もあります。

重い低血糖が与えるリスクとは

高齢者の糖尿病患者は動脈硬化が進行していることも多く、重い低血糖は「心筋梗塞」「脳梗塞」の発症原因や死亡原因にもつながります。

重い低血糖は脳に障害を与え、認知機能の低下にもつながります。低血糖で意識障害や昏睡、転倒や骨折の危険性も高まり、これが寝たきりになる原因の1つとも考えられています。

これらの理由からも、高齢者では糖尿病治療における血糖値の基準が比較的緩く決められているのです。つまり、高齢者では低血糖を起こさないことが治療において最優先なのです。

普段飲んでいる薬にも注意すること

高齢者の方は自分が使用している薬について詳しく知ることも大切です。高齢者の糖尿病は低血糖を起こしやすく、さらに重症化しやすいので服用している薬によっては高齢者では目標指標が異なります。

気をつけるべき薬は「インスリン製剤」「スルホニル尿素薬」「速効型インスリン分泌薬」など。これらの薬をいつも通りに使用しても、食事量が少なかったり、いつもより激しく体を動かしたりすると、血糖値が下がりすぎることがあります。

近年、糖尿病学会では低血糖が心配される薬を使用している場合に限り、目標値の下限も定められています。高齢者の健康状態の目標値は、健康状態と使用している薬の種類で変わります。健康状態とは、「認知機能の状態」と「日常生活」がどの程度かにより目標値が決まっています。

糖尿病学会では現状3カテゴリーに分けられています。

  • 「ある程度自立して生活できる人」・・・6.5%~7.0%
  • 「認知機能に軽度な障害がある人」・・・7.0%
  • 「認知症が進んでいて日常生活が著しく低下している人」・・・7.5%
  • ※数値はヘモグロビンA1cの目標値

高齢者の糖尿病では、このように服用している薬によって低血糖を引き起こさないように健康状態・認知症の有無によって配慮することも重要なのです。

筋肉量を減らさないことも重要

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高齢者の糖尿病対策では低血糖を起こさないことが最優先だとご理解頂けたかと思います。それ以外にも筋肉を減らさないことも大切です。高齢になると加齢や生活習慣病などによって、筋肉量が減ったり、筋力が著しく低下したりします。

その状態を「サルコペニア」と言います。筋力や身体機能の低下が起こる症候群です。糖尿病を発症している方はサルコペニアをなんとしても避けなければいけません。

なぜなら、筋肉はエネルギー源として多くのブドウ糖を消費します。筋肉が減ってしまうと、体内で消費するブドウ糖の量が減ってしまい、血糖値が上昇しやすくなるからです。

筋トレ・食事で予防しよう

筋肉を維持するには、スクワットや片足立ちのような運動が適しています。スクワットは椅子を使い、ゆっくり立ち上がったり、座ったりを繰り返します。太ももやお尻など、筋肉の多い部位が鍛えられます。片足立ちは、左右それぞれ約1分間行ってください。

筋肉には、瞬発力を発揮するための筋肉「速筋(白筋)」と、持久的な運動を行うための筋肉「遅筋(赤筋)」の2種類があります。

サルコペニアで減ってくるのは、主に瞬発力の筋肉です。これを鍛えるには、ウォーキングのような有酸素運動ではなくて「スクワット」「片足立ち」「ウエイトトレーニング」のような筋力トレーニングが適しています。

筋肉をつけるには筋トレも大切ですが、食事面も重要です。筋肉の材料となるタンパク質を多く摂取してください。「しらす干し(半乾燥)」「いわし」「いくら」「牛肉」などが豊富にタンパク質を含む食品です。

「糖尿病」と「認知症」の関連性とは?

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近年、高齢者に増えているのが「糖尿病」と「認知症」の併発です。糖尿病の三大合併症といえば、「網膜症」「腎症」「神経障害」ですが、近年は「認知症」もその一つとして注目され始めています。

認知症は「アルツハイマー型」と「脳血管型」に 大きく分けられますが、糖尿病の高齢者は糖尿病ではない高齢者と比べて、どちらの認知症の発症リスクも2倍以上に増えるのです。

また、糖尿病歴の長い人の方が認知症発症リスクが高くなることも分かっています。

糖尿病は脳の「海馬」を萎縮させる

MRI検査では脳の中枢の記憶装置である「海馬」の体積を測定することができます。海馬とは、記憶に関与している脳の奥の方にある部分。

糖尿病の持病がある場合、認知症を発病していない場合でも海馬の体積が健康な人に比べてすでに萎縮していることが報告されています。この原因として、糖尿病の人の脳内ではインスリンの働きが弱まることが考えられています。

糖尿病の病歴が長いほど脳の容積が小さくなる・海馬の容積が小さくなることが分かっており、これが認知症の発症に関与しているのです。

糖尿病による認知症の予防・改善には、運動特に有酸素運動が効果的といった見解もあり、高齢者の糖尿病においては認知症の面からも運動療法が重要になります。

認知症で気をつけるべきこと

認知症を合併した糖尿病患者の中には、「認知症の悪化」が「糖尿病の悪化」を招くという負のスパイラルに陥ってしまう人が多くいます。認知症の糖尿病患者が最も気をつけるべき行動は「過食」です。

食べ過ぎによって、血糖管理ができなくなる・血糖コントロールが十分に行われない事態を招き糖尿病の悪化につながります。また、昼寝の時間が長い人ほど、過食する人が多いという報告があります。日中に睡眠を摂りすぎないこと・食事を摂ったことを忘れることでの過食を防ぐことが大切です。

肝心の治療ですが、認知症と糖尿病を併発している重度の患者さんには食事・運動療法の遵守は難しいです。また、患者が積極的に薬を服薬することも困難です。

個別医療や専門施設への入所による治療も

そのため、認知症の糖尿病患者の方には「個別医療」という考えが普及しています。個別医療では、均一的な治療を行うのではなく「患者本人がどのような治療を望んでいるか」を一番に考えます。

たとえ、認知症であっても自分がどうしたいかを丁寧にヒアリングし、その人の社会的な状況や置かれている状態などを総合的にみて治療を行っていきます。場合によっては目標値を少しゆるめに設定するなどの配慮を行い、肩の力を抜きリラックスして治療を行っていきます。

改善の余地がなく症状が悪化する場合は専門の施設への入所も選択肢の一つです。

その際の注意点ですが、中にはインスリン注射が必要な方を受け入れることができない施設もあります。ケアマネージャーの方、自治体の窓口などに相談し患者さんに合った施設を探すことが大切です。

まとめ

超高齢化社会を迎え始めている日本において、「糖尿病」からの「認知症」を患うケースが問題視されるようになってきています。

長年の糖尿病が認知症のリスクを高めることも分かっており、超高齢化が進む日本では高齢者の糖尿病・認知症へのサポート体制が今後必要となっていくでしょう。

さらに、高齢者では特に合併症を引き起こさない・低血糖を起こさないようにするといった治療への注意点が多いのも実情です。患者だけでなくサポートする側の病気への理解とケアが重要になります。

快適に長生きするためにも、個人個人がこれらのリスクを知り治療に日々専念することも忘れてはいけません。

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