1型糖尿病の基礎知識と障害基礎年金のこと

糖尿病の基礎知識
1型糖尿病の基礎知識と障害基礎年金のこと

2017年11月に1型糖尿病患者の障害基礎年金が打ち切られるというニュースがあり、1型糖尿病や障害基礎年金について興味を持った方もいるのではないでしょうか?

1型糖尿病の基礎知識と障害基礎年金について詳しくみていきましょう。

糖尿病には1型と2型がある

糖尿病にはインスリン依存型と呼ばれる1型と非インスリン依存型と呼ばれる2型があります。

日本人のほとんどは2型糖尿病

糖尿病になりやすい体質の遺伝に過食や運動不足、加齢、ストレスなどの生活習慣が重なることで発症する糖尿病は2型糖尿病です。日本人の糖尿病のほとんどは生活習慣が大きな要因となる2型糖尿病が占めています。

食事を摂取すると炭水化物などに含まれるブドウ糖が血液中へと吸収され、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンによって細胞の中へと取り込まれます。

インスリンは食事によって高くなった血糖値を下げる働きがありますが、「インスリンの分泌される量が足りない場合」、「糖を細胞に取り込む働きが低下した場合」には、血液中にブドウ糖が多く残されたままとなり、血糖値が高くなります。

2型糖尿病は血糖値が高くなりやすい体質の遺伝の関与はあるものの、生活習慣が大きな要因となるため、インスリンの分泌量の低下やインスリンの働きを低下させる生活習慣の改善を図ることで発症を予防し、症状を改善することも可能です。

具体的には「肥満を予防」し、「身体活動量を増やして適正な食事摂取を行うこと」、「インスリンの分泌量を増やしたり、インスリンの細胞への働きをよくしたりする薬物治療」が予防・治療として行われます。

日本人の発症率は低い1型糖尿病

一方、1型糖尿病は食事で血液中に吸収されたブドウ糖を細胞へと取り込むインスリンの分泌自体がなくなる病気です。1型糖尿病は自己免疫疾患によって起こると考えられています。

絶対的にインスリンがなくなるため、治療は注射でインスリンを補うか膵臓移植をしなければなりません。日本での1型糖尿病の年間発症率は10万人あたり1~2人といわれています。フィンランドやスウェーデン、ノルウェーなどの地域では、日本よりも高い発症率がみられます。

1型糖尿病と2型糖尿病の合併症

1型糖尿病も2型糖尿病も糖尿病で高血糖が続くことによって糖尿病の三大合併症と呼ばれる糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害や、心筋梗塞・脳梗塞などの発症のリスクが高くなります。

急性合併症では、低血糖、高血糖による意識障害や昏睡が起こることもあります。

2型糖尿病

1型糖尿病の症状

1型糖尿病の発症のタイプは急性型、緩徐進行型、劇症型の3つに分類されます。

急性発症1型糖尿病

初期の症状は、のどの渇き、水分を欲しがる、頻繁に尿が出る、体重が減るなどの高血糖による症状がみられます。その後、約3か月以内にケトーシスやケトアシドーシスが起こります。

ケトーシスは高血糖で体内にケトン体が増加する状態で、ケトアシドーシスはケトン体が血液中に蓄積して体が酸性に傾いた状態です。ケトーシスやケトアシドーシスでは意識障害や昏睡がみられます。

グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体、膵島細胞抗体(ICA)、IA-2抗体、インスリン自己抗体(IAA)、亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体、といった膵島関連自己抗体が陽性となるか、内因性インスリン分泌の欠乏が認められます。

早い段階で治療を開始した場合にはケトーシスやケトアシドーシスが起こらない場合もあります。発症時にはインスリン分泌が保たれていることもあり、2型糖尿病との分別ができないケースもあります。

緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)

ゆっくりと時間をかけて徐々に進行し、2型糖尿病に似た症状を示します。初期でみられる症状は多量の尿、のどの渇き、やたらと水分を欲しがる、体重減少など、高血糖でみられる症状です。

発症した時期は2型糖尿病と同じように食事療法や運動療法、内服薬での治療が可能ですが、年単位で進行していき、やがてはインスリン注射が必要な状態となります。膵島関連自己抗体(GAD、ICA、IAA、IA-2抗体など)が陽性となります。

劇症1型糖尿病

急激に高血糖(初診時の血糖値が288mg/dl以上)となり、のどの渇き、水分を多く欲しがる、尿が多量に出る、全身のだるさなどの症状がみられます。その後、1週間前後でケトーシス、またはケトアシドーシスとなり、意識障害や昏睡がみられます。急速に症状が現れ、治療が遅れると死に至ることもあります。

患者の約70%に前駆症状として咽頭痛や発熱などの上気道炎、上腹部痛や吐き気、嘔吐などの消化器症状といった感染症状が認められます。ごくまれに妊娠時に発症することもあります。

急性期の症状が落ち着いても血糖値が不安定であり、血糖のコントロールが困難で、網膜症、腎症、神経障害、動脈硬化などの合併症のリスクも高くなります。

1型糖尿病の原因

1型糖尿病は小児や若年者の発症に多いとされていますが、成人にも発症します。その原因については遺伝因子と環境因子の相互の関与によって発症することがわかってきていますが、詳細についてはいまだわかっていません。今後の研究報告が期待されています。

1型糖尿病と自己免疫

1型糖尿病はインスリンをつくる膵臓のランゲルハンス島のβ細胞が破壊されて起こりますが、その原因として自己免疫が関係しているものと、自己抗体が陽性とならない特発性とに分けられます。

自己免疫性は自己免疫に関係する細胞が何らかの異常によって自分の細胞を攻撃し、結果膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンが分泌されなくなる状態です。特発性は現時点では原因がよくわからないものです。

1型糖尿病と遺伝の関与

1型糖尿病患者の兄弟姉妹間で有病率が一般に比べて高いことから、1型糖尿病の発症に遺伝因子が関与していることがわかっています。HLA遺伝子、non-HLA遺伝子(インスリン遺伝子、CTLA4遺伝子、PTPN22遺伝子)、GWASなどの遺伝子との関連が言われています。

関連遺伝子の中でもHLA遺伝子と強く関連するといわれています。HLAとはヒト白血球抗原のことで、HLA遺伝子があると安定性の低いHLAたんぱく質がつくられ、自己免疫疾患を引き起こしやすくなるのではないかと考えられています。

1型糖尿病に関連する遺伝子を保有する場合には発症率が高くなることが言われていますが、関連遺伝子を保有しているだけで必ず1型糖尿病を発症するわけではなく、環境因子との相互の作用が言われています。

1型糖尿病の環境因子

環境因子としては食事、ウイルス、環境有害物質などの影響があげられます。劇症1型糖尿病では70%の症例に感染症状がみられることからウイルスとの関連が言われています。

劇症1型糖尿病の発症要因となるウイルスは、コクサッキーB群、ムンプス(おたふくかぜ)、風疹、ロタ、A型肝炎、サイトメガロ、水痘・帯状疱疹、EB、ヒトヘルペスなどのウイルスがあげられます。

1型糖尿病と環境

障害基礎年金打ち切りの衝撃

障害基礎年金とは、病気やけがによって障害を負い、定められた基準を満たす場合に、一定額を受給できる制度です。

障害基礎年金の受給要件

障害基礎年金は、国民年金に加入している間に初めてなった病気やけが、子供の頃に起こった病気やけがによって障害が残っている場合に受給できるケースもあります。

障害基礎年金を受給するには、障害の認定を受けた日、障害の状態、保険料の納付などの要件を満たしていることが必要です。

糖尿病の場合は糖尿病性腎症で人工透析を受けている状態や糖尿病性壊疽による足の切断、糖尿病性網膜症による失明などによって長期の安静が必要な場合や日常生活が著しく制限される状態などが該当します。

障害基礎年金の支給要件を満たし、症状や検査結果、病状の経過、人工透析の状況、日常生活の状況などから総合的に判断され、障害の程度が1級、2級に相当すると判断された場合に受給できます。

1型糖尿病と障害基礎年金

1型糖尿病は小児期に発症することが多く、障害基礎年金を受けられる場合は、20歳前の傷病による障害基礎年金受給に該当することが多いでしょう。

20歳前傷病による障害基礎年金受給の場合には、「本人の前年所得が制限額を超えるときは、その年の8月から1年間、全額または半額の受取りが停止されます。」

(出典:厚生労働省 障害基礎年金の手続きガイドPDF P.33)

20歳前の1型糖尿病によって障害基礎年金を受給している場合は、所得額によって打ち切られる場合もあるということです。

1型糖尿病と障害基礎年金の動向

2017年11月には1型糖尿病の20~40歳代の患者9名が、障害基礎年金を打ち切られたことに対して訴訟を起こすというニュースがありました。

9名は20歳前に1型糖尿病を発症し、20歳を過ぎてから障害等級2級が認められて障害基礎年金を受給していたけれども、2009年に1名、2016年に8名が「2級に該当しない」という理由で障害基礎年金を打ち切られたといいます。

2016年6月の障害年金の改正によって、障害厚生年金では障害等級3級が認定されるようになりました。障害基礎年金が国民保険に加入していた場合に受給できるのに対し、障害厚生年金は厚生年金に加入していた場合(会社に勤めて厚生年金に入っていた場合)に請求できます。

1型糖尿病患者でも治療によって血糖コントロールができており、労働できる場合は障害厚生年金が受給できるケースがあるということですが、労働が行えない状態である障害等級2級の1型糖尿病患者が障害基礎年金を打ち切られたとしたら、その経済的な負担や精神的なストレスは大きなものとなることが予測できます。

今回の事例では障害基礎年金が打ち切りとなった理由が「2級に該当しない」という以上の詳細が分からないため、どういう経緯、判断で打ち切りとなったのかが定かではありませんが、今後の動向が注目されます。

1型糖尿病と障害基礎年金

まとめ

1型糖尿病は2型糖尿病と原因や治療方法も異なります。1型糖尿病はインスリンが作り出せない状態となるため、インスリンを毎日注射で補う治療が必要です。

合併症や血糖コントロールの不良によって労働や日常生活が制限され、毎月の治療費も負担となります。2016年の法改正では障害基礎年金の障害等級1級、2級に加えて障害厚生年金で3級が認定されることとなりました。

障害年金については、日本年金機構ホームページで詳しく調べることができます。全国の相談・手続き窓口の一覧や電話相談ができる「ねんきんダイヤル」の番号も掲載されています。障害年金の受給には一定の要件を満たしている必要がありますので、一度相談してみるのもよいでしょう。

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