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医療法人による糖尿病患者のためのコラム2021年1月5日愛犬が糖尿病の疑い?犬の糖尿病まとめ

犬も人間のように糖尿病になるのでしょうか?人間の糖尿病は生活習慣から起こる2型糖尿病がほとんどですが、犬の場合は何が原因となるのでしょう。

糖尿病になった犬がどのような症状がみられるのか、治療は何を行うのか、どうしたら糖尿病を防ぐことができるのかについて詳しくみていきましょう。

そもそも、犬も糖尿病になるの?

人間の糖尿病は生活習慣病として知られています。糖尿病は一度発症すると治らない病気で、様々な合併症を引き起こします。症状のために生活の質は低下し、命に関わることもあります。

日本人に多い2型糖尿病は肥満、食べ過ぎ、運動不足、ストレス、喫煙、過度の飲酒などの生活習慣が原因で発症するとされています。1型糖尿病の発症の原因は明確には分かっておらず、自己免疫疾患や遺伝、ウイルス、食生活が関連しているとされています。

そのほかにも遺伝子異常や内分泌疾患、膵炎などが原因となる糖尿病と、妊娠時に発症する妊娠糖尿病とがあります。犬も人間と同じように、生活習慣による2型糖尿病や自己免疫疾患にかかわる1型糖尿病を発症することがあるのでしょうか。

答えは犬も糖尿病になります。

人間の1型糖尿病、2型糖尿病に類似したものはありますが、まったく同じタイプの糖尿病はありません。

犬の糖尿病のほとんどは膵臓の膵島の空胞変性によって、インスリンの分泌が減少する糖尿病です。そのほかにはホルモンや病気に伴うもの、先天性の膵臓の障害によるものなどがあります。

犬の糖尿病、その症状とは?

犬の糖尿病では以下のような症状がみられます。

  • 多飲
  • 多尿
  • 体重減少
  • 食欲低下
  • 元気がなくなる
  • 衰弱
  • 嘔吐
  • 毛並みの悪化
  • 下痢
  • 糖尿病性白内障の合併

多尿、のどの渇き、水分を多くとる、体重減少、空腹感、疲労感、眠気、吐き気などは人間の糖尿病でも見られる症状です。

犬の糖尿病では、初めは多飲、多尿、体重減少などがみられますが、ケトン体が多量に発生して体が酸性に傾くと(ケトアシドーシス)食欲がなくなり、元気がなくなって衰弱し、嘔吐、下痢などの症状も見られるようになります。

人間の糖尿病の急性合併症でみられる非ケトン性高浸透圧性(高血糖による高度の脱水)昏睡がみられることはあまりありません。膵炎に伴う場合は腹痛のために体を丸めた姿勢や、伏せたままお尻だけをあげる姿勢をとることや、嘔吐、下痢、血便などの症状も見られます。

クッシング症候群に伴う場合は、水をやたらと飲む、尿がたくさん出る、息が荒い、お腹が出る、毛が薄くなる、湿疹、食欲増進、足腰が弱くなるなどの症状が見られます。

犬が糖尿病になる原因

犬が糖尿病になる原因には、膵臓の膵島の空胞変性によるもの、発情後に分泌されるホルモンによるもの、膵炎やクッシング症候群、グルカゴノーマなどの病気に伴うもの、先天性の膵臓の障害によるもの、医原性のものなどがあります。

犬の糖尿病の分類

犬に見られる糖尿病の原因ごとのタイプを以下に示します。

原発性糖尿病

犬の糖尿病の半数以上は原発性糖尿病です。人間の1型糖尿病と例えられることもありますが、人間の1型糖尿病のように自己免疫によって膵臓のβ細胞が破壊されるのではなく、膵臓の細胞が空砲変性を起こすことによってインスリンの分泌が減少して起こります。

発情後糖尿病

雌犬は発情後に卵巣の黄体から分泌されるプロゲステロンというホルモンにより、インスリン抵抗性(インスリンの作用が効きにくくなる)が起こります。

プロゲステロン自体がインスリン抵抗性を起こすことと、プロゲステロンが乳腺組織を刺激して成長ホルモンが分泌されることもインスリン抵抗性を強める原因となります。

膵炎による糖尿病

基礎疾患として急性膵炎や慢性膵炎がある場合には膵臓の機能障害からインスリンの分泌不足やインスリン抵抗性がみられます。

クッシング症候群による糖尿病

クッシング症候群は脳の下垂体や副腎自体の腫瘍によって副腎からグルココルチコイドというホルモンが過剰に分泌される病気です。グルココルチコイドによってインスリン抵抗性が起こります。

グルカゴノーマによる糖尿病

膵臓の腫瘍であるグルカゴノーマから分泌されるグルカゴンによってインスリン抵抗性が起こります。

若年性糖尿病

先天性の膵臓の異形成や若年性膵炎などによってインスリンの分泌不足やインスリン抵抗性がみられます。

医原性糖尿病

他の病気の治療で服用していた薬の副作用などによって、インスリン抵抗性やインスリンの分泌不足が起こることがあります。

その他

人間の2型糖尿病のように内分泌機能の異常がないにもかかわらず、高インスリン血症を認める場合もありますが、犬の糖尿病のタイプとしては確立されていません。

糖尿病を治療する犬

犬の糖尿病治療と費用

犬の糖尿病の治療と、治療にかかる費用についてみていきましょう。

犬の糖尿病の治療

犬の糖尿病では合併症の腎症を予防すること、多飲・多尿などの症状を改善して生活の質(QOL)の向上を図ることが大切です。

人間では糖尿病はゆっくりと進行し、網膜症や腎症などの合併症も血糖コントロールの改善で予防することが期待できますが、犬の糖尿病では血糖コントロールの改善を図っても網膜症や白内障を避けることができないのが現実です。血糖コントロールが悪ければ腎症も早い段階で進行します。

犬の糖尿病では以下のような治療が行われます。

食事と生活の改善

血糖コントロールは人間と同じように食事療法と適度な運動が基本となります。犬の食事療法では食後の高血糖を抑えられる食物繊維が強化された糖尿病処方食を1日2回決まった時間に与えます。

嗜好の問題や食欲が低下していて処方食を食べるのが難しい場合には成犬・老犬用のドライフード、缶詰を用いることもあります。間食は血糖コントロールに必要な場合以外は避けるようにします。

運動はなるべく同じメニューを毎日行い、急な激しい運動は低血糖のリスクがあるため避けるようにします。

インスリン療法

犬の薬物療法では、経口血糖降下剤は使用せずにインスリンを用います。ほとんどの糖尿病の犬はインスリンの分泌が低下しており、インスリン療法が必要となります。1日2回の糖尿病処方食後にインスリン注射を行います。

インスリンが効く時間は、小型犬は短いので、長い時間作用するインスリン製剤を選択します。大型犬は長い時間効くため、作用時間が短いインスリン製剤を選びます。組み合わせて使うこともあります。

インスリン療法の手順

インスリン治療を始めるときは数日間入院して血糖管理を行います。

インスリン注射後の作用時間を把握するためにインスリン注射前、注射後3時間・6時間・9時間の血糖値を測定してグラフ(血糖曲線)にし、適正な曲線に近づくようにインスリン製剤の種類、インスリンの投与量を調整します。

血糖曲線が適正に近づき、血糖コントロールが安定すれば帰宅します。自宅に帰ったら、飼い主が毎日のインスリン注射を行うことになるので、飼い主はインスリン注射の方法や低血糖が起こった時の対処法、尿糖検査の行い方などの指導を受けます。

退院後も定期的な検査を病院で受け、血糖曲線でインスリンの種類や量の検討を適宜行って経過を診ます。

犬の血糖測定

病院では血糖測定を行いますが、自宅では尿糖検査で血糖を管理します。人間用の血糖測定器で犬の血糖も測ることはできますが、血糖値が低めに出る傾向があります。近年では、動物病院などに向けた犬猫専用の血糖測定器も発売されています。

血糖値や尿糖のほかにも、飲水量や尿量、体重、脱水の程度なども血糖コントロールがうまくいっているかの指標となります。

雌犬の避妊

発情すると分泌されるプロゲステロンというホルモンがインスリン抵抗性を起こすので、糖尿病の雌犬は卵巣を摘出する手術が推奨されます。

糖尿病白内障

糖尿病のほとんどの犬が糖尿病白内障となります。白内障の治療は手術治療であり、網膜が萎縮する前に早期に手術を行う必要があります。

愛犬を糖尿病にしないために

近年、犬の糖尿病は増えてきています。特に、ダックスフンド、プードル、小型のテリアなどが糖尿病になりやすい犬種とされています。大切な家族の一員である愛犬を糖尿病から守るためには何ができるでしょうか。

犬の糖尿病の原因の多くは原発性糖尿病であり、そのほかの原因としても疾患に伴うものや発情などによるものがほとんどで予防をすることは難しいといえるかもしれません。

ですが、少数ながら糖尿病の犬の中にも人間の2型糖尿病と同じように食べ過ぎ、肥満、運動不足、加齢などの要因が重なって糖尿病を発症するケースもあります。

犬の糖尿病は人間よりも進行が早く、血糖コントロールも不良となりやすいため、糖尿病にいったんなれば白内障や腎症といった合併症を避けることは難しくなります。インスリン注射も毎日必要となります。

食事は決まった時間に適切な量を与え、毎日適度な運動を行い、飼い主とともに健康的な生活を送るようにしましょう。雌犬の場合は避妊手術を行うことで発情後糖尿病の発症リスクを回避できます。

愛犬の様子を日々気にかけて、早め早めの対処を行うことも大切です。糖尿病の症状であるやたらと水を欲しがる、おしっこの量が多い、やせてきたなどの兆候が見られれば早めに病院を受診するようにしましょう。

糖尿病と犬

まとめ

糖尿病は一度患うと一生治療が必要となる病気です。犬は人間よりも病気が進行しやすく合併症を防ぐこともできません。

本来、犬の糖尿病は膵臓の細胞の変性や発情後のホルモンによるもの、膵臓や副腎の病気に伴うものが原因となりますが、人間の生活習慣の変化に伴い、犬の生活習慣も変化してきたことから人間と同じように食べ過ぎや肥満、運動不足などが要因となって糖尿病を発症するケースも増えているようです。

糖尿病の予防にも、治療にも、体格に見合った適切な食事と規則正しい生活、適度な運動は基本となります。大切な愛犬との幸せな生活を守るため、愛犬と自分の生活習慣を一度振り返ってみませんか。

出典元

糖尿病治療の実際1.糖尿病の病態と検査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/25/3/25_83/_pdf

糖尿病治療の実際2.犬の糖尿病の治療
https://www.jstage.jst.go.jp/article/dobutsurinshoigaku/25/3/25_85/_pdf/-char/ja

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