医療法人による糖尿病患者のためのコラム2020年12月1日20代の糖尿病患者が増えている?もし、自分や家族がなったときは
40歳以降の中高年や高齢者に多いとされている2型糖尿病ですが、最近では20代の若い糖尿病患者が増えていると言います。
その背景には、食生活が豊かになり、おいしいものが増えたことや、労働環境によって食生活の乱れが生じることが関連していると考えられています。20代が糖尿病になる原因や糖尿病の症状、平均寿命について詳しく見ていきましょう。
糖尿病患者の年代の割合
生活習慣が原因となる2型糖尿病の患者数は、近年、食生活の欧米化の影響を受け、急速に増大しています。厚生労働省の平成 28 年国民健康・栄養調査結果の概要によると、20歳以上の「糖尿病が強く疑われる者」は約1,000万人と推計されています。
20歳以上の「糖尿病の可能性を否定できない者」も約1,000万人と推計されており、「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」を合わせると推計2,000万人となります。(グラフ1 「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数の年次推移 参照)
「糖尿病が強く疑われる者」の推計人数は平成9年の690万人から310万人増加し、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数は、平成9年の680万人より320万人増加しています。
「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」を合わせると、平成9年から640万人も増加していることとなります。
グラフ1 「糖尿病が強く疑われる者」、「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数の年次推移(20 歳以上、男女計)(平成9年、14 年、19 年、24 年、28 年)
出典:厚生労働省 平成 28 年 国民健康・栄養調査結果の概要
本来は、2型糖尿病は40代以降の中高年で発症が多く見られる病気と認識されてきましたが、最近では20~40歳代の若年層の2型糖尿病患者が増えてきていると言われています。
20代が糖尿病になる原因
2型糖尿病は糖尿病になりやすい体質の遺伝があるうえに、食べ過ぎや肥満、運動不足、ストレスなどの生活習慣が合わさることで起こります。
肥満
20~40歳代の若年層の2型糖尿病患者が増えてきている原因の一つには肥満が関係しています。
厚生労働省の平成28年国民健康・栄養調査結果の概要によると、20歳以上の肥満者の割合は男性31.3%、女性20.6%となっています。(グラフ2 肥満者(BMI≧25 kg/m2)の割合の年次推移(20 歳以上)(平成 18~28 年) 参照)
平成18年から平成28年にかけて数値の優位な増減はありませんが、平成28年の男性の肥満の割合は平成18年29.7%からはやや増加しています。
グラフ2 肥満者(BMI≧25 kg/m2)の割合の年次推移(20 歳以上)(平成 18~28 年)
出典:厚生労働省 平成 28 年 国民健康・栄養調査結果の概要
運動不足
2型糖尿病の原因には運動不足があげられます。
生活習慣病の予防のために国民の健康増進を図るために施策された健康日本21では、1日の歩数の目標値を男性9,200歩、女性8,300歩程度とされています。
実際の20歳以上の国民の歩数の平均値を見てみると、平成28年では男性6,984歩、女性6,029歩となっています。(グラフ3 歩数の平均値の年次推移(20 歳以上)(平成 18~28 年) 参照)
平成18年から平成28年にかけて数値の増減はあるものの平成18年の男性7,413歩、女性6,590歩に比較するとやや歩数は少なくなっています。
グラフ3 歩数の平均値の年次推移(20 歳以上)(平成 18~28 年)
出典:厚生労働省 平成 28 年 国民健康・栄養調査結果の概要
食生活
2型糖尿病患者に多い食生活として、「朝食を食べない」、「22時以降に夕食をとる」などの不規則な食生活をしている人が多いことが言われています。また、不規則な食生活をせざるを得られない背景には、貧困という社会的な問題が隠れていることが指摘されています。
ある調査では、一般の学歴や雇用形態に比べて、糖尿病患者が低学歴である割合、非正規雇用・無職の割合が高く、長時間労働を行わなければいけない労働環境につかざるを得ない社会的な背景が、糖尿病を発症しやすい生活習慣をつくっているという考え方もあります。
食生活は三食を決まった時間に食べて、食事の量は、朝はしっかり、夜は少なめにすることが理想です。夕食はなるべく早い時間にとり、寝る3時間前には食べ終えましょう。夜遅い時間や寝る前の食事は翌朝の血糖値を高くします。
仕事の合間の5分で食事を済ますことは避け、一食にかける時間を20分はとるようにして、しっかり噛んで食べるようにしましょう。
遺伝
2型糖尿病の発症には、糖尿病になりやすい体質の遺伝が関係しており、家族の中に糖尿病の方がいる人は糖尿病を発症する確率が高くなります。
家族に糖尿病の方がいる人は、自分も糖尿病になりやすい体質であることを意識して食生活や運動を見直すことが大切です。
妊娠
妊娠糖尿病は妊娠してから初めて発症した糖尿病で、20代で妊娠し、糖尿病を発症した場合にみられます。
1型糖尿病
インスリンの分泌自体がなくなってしまい糖尿病となる1型糖尿病は、自己免疫やウイルスなどが原因として考えられています。
1型糖尿病は10代では2型糖尿病と同じくらいの発症率ですが、20代になると2型糖尿病の方が発症率は高くなると言われています。
20代の糖尿病の症状と平均寿命
2型糖尿病はインスリンの分泌が少なくなることや、インスリンが効きにくくなることによって、高血糖となり、高血糖の状態が続くことで血管が障害されてさまざまな症状が見られます。
初めは自覚症状も見られず、のどが渇く、多尿、体がだるいなどの症状が見られますが、長年にわたって高血糖が続くと、失明をきたす網膜症や足の壊疽を起こす神経障害、腎不全をきたす腎障害、動脈硬化による脳卒中、心筋梗塞などの合併症が起こります。
20代に特徴的な糖尿病の症状
糖尿病は一度発症すると治ることはなく、20代で糖尿病を発症すれば、長年にわたって糖尿病の治療や患者自身による血糖コントロールが必要となります。
20代で糖尿病を発症すると病気に対しての自覚も生まれにくく、40代になって重症の合併症がみられるケースも多く見られます。
家族全体に糖尿病の傾向や肥満がみられることも多く、家族に糖尿病の方がいる場合には、家族みんなの食生活を見直すことや、ウォーキングや体操の時間を生活の中に設けることや階段を意識して使うなど、運動をこまめに行うようにしましょう。
糖尿病の平均寿命
2001年から2010年の糖尿病患者の平均死亡時年齢を調査した研究では男性71.4歳、女性75.1歳で、日本人の平均寿命に比べて男性で8.2歳、女性で11.2歳短い結果となっています。
1991年から2000年の糖尿病患者の平均死亡年齢と比べると2001年からの十年間では糖尿病患者の平均寿命は男性で3.4歳、女性で3.5歳延びており、日本人の平均寿命の延び(男性2.0歳、女性1.7歳)よりも大きいとされています。
糖尿病の年代別の死因
年代別の死因を調査した結果では、20代の糖尿病患者の死因はがん(白血病・リンパ腫)が37.7%を占め、次いで糖尿病性昏睡が10.4%、脳卒中や心筋梗塞、慢性腎不全などの血管障害が9.1%、心不全などの虚血性心疾患以外の心疾患が7.8%、肺炎などの感染症が5.2%となっています。
糖尿病患者全症例の死因の第一位も20代の糖尿病患者の死因と同じくがんです。糖尿病性昏睡での死因が全症例では0.6%に対し、20代では10.4%と多いことが分かります。
糖尿病性昏睡とは糖尿病の急性合併症で、高血糖や低血糖によって急に意識がなくなる状態です。
糖尿病昏睡は1型糖尿病の場合にはインスリン治療を中止したり、インスリンの量を急に減らしたりした場合に高血糖となって昏睡状態となることがあります。
2型糖尿病の場合にはインスリンの分泌が減った時やインスリンの効きが悪くなった時、感染症にかかった時や暴飲暴食、ストレスなどがきっかけとなって高血糖となり、昏睡が起こることがあります。
糖分のたくさん入ったペットボトル飲料を多量に飲んだ時にも高血糖による昏睡が起こることがあり、20代を含む若年層で患者が増えていると言われています。
低血糖による昏睡の場合には何かおかしいなと感じた時点でブドウ糖をなめることで回復することがありますが、高血糖による昏睡の場合には自分でできる対処法はありません。できるだけはやく、緊急搬送することが必要です。
まとめ
糖尿病の治療は健康な人と変わらない生活の質を維持すること、寿命を確保することを目標として行われます。日々、糖尿病の治療も進歩しており、糖尿病患者の寿命も延びています。
早期に治療を始めることができれば血糖を良好にコントロールでき、合併症を伴うリスクも軽減します。
最近では、2型糖尿病では少ないとされていた20代の糖尿病患者が増えています。家族に糖尿病の方がいる人は、自分も糖尿病になりやすいということを意識して、食生活を整え、生活の中で今よりも動く機会を持ちましょう。
そして、のどが渇く、トイレの回数が多い、体がだるい、太っていたけれど急に痩せたなどの症状が見られたら早めに受診し、適切な診断と治療を受けましょう。
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