医療法人による糖尿病患者のためのコラム2021年5月11日痩せ型なのに糖尿病?その原因と予防法とは
糖尿病は肥満の人がなる病気だと思っていませんか?実は痩せ型の人でも糖尿病を発症するのです。痩せた筋肉の少ない女性で糖尿病を発症しやすいことも明らかになっています。
日本では痩せた女性の割合が10年間で増加しており、将来的に痩せ型で糖尿病を発症する女性が多くなることが懸念されています。
今回は、痩せ型の日本人の割合から、痩せ型で糖尿病を発症する原因までを詳しくみていきましょう。
痩せ型の糖尿病患者は意外に多い
「糖尿病=肥満」というイメージがありませんか?しかし、意外にも痩せている糖尿病患者は多いのです。
そもそも肥満とは
肥満の程度を測るのには、BMI(Body Mass Index)が用いられます。日本肥満学会によると、BMIが18.5 kg/m2以上25 kg/m2未満は普通体重、BMI25 kg/m2以上が肥満とされます。
BMIは「体重(kg)/身長(m2)」で表され、身長と体重から求められた値です。しかし、このBMIの値には筋肉量や脂肪量は考慮されておらず、BMIの値が25 kg/m2未満であっても脂肪量が筋肉や骨の量よりも多い「かくれ肥満」の場合もあるのです。
痩せ型と内臓脂肪型肥満
厚生労働省の平成16年国民健康・栄養調査報告によると、BMI25未満で腹囲のみが男性85cmを超えている人の割合(BMI値では普通体重以下で内臓脂肪型肥満がある人)は、40代以上で20%を超えています。
女性ではBMI25 kg/m2未満で腹囲90cm以上の人は40代以上から徐々に増え、70代で一番多く見られます。つまり、いわゆる「かくれ肥満」と言われるBMI値は低いけれど内臓脂肪の多い人の割合は年齢が上にいくごとに増えているのです。
BMI値では痩せ型の範囲でも、「かくれ肥満」と言われる内臓脂肪型肥満の人では、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を発症するリスクが高くなります。また、最新の知見では、順天堂大学の研究によって「痩せた女性で筋肉が少ない人ほど高血糖のリスクが高い」ということが発表されました。
年齢が若い痩せ型の女性でも、筋肉量の少ない人では将来的に糖尿病を発症するリスクが高くなると考えられています。
参考記事1:厚生労働省 国民健康・栄養調査(平成16年)
参考記事2:「低栄養」ってなに? 若い女性の“やせすぎ”は危険
骨格筋のインスリン抵抗性が痩せ型糖尿病の原因
さらに、痩せ型の糖尿病は特に女性に多いことがわかっています。順天堂大学の研究では、痩せた女性で高血糖がみられやすい原因として、インスリンの分泌の低下や骨格筋のインスリン抵抗性が関連しているとしています。
では、なぜ痩せ型の女性に高血糖がみられやすいのでしょうか?痩せ型の女性の糖尿病の原因についてみていきましょう。
痩せ型で高血糖になりやすい要因
痩せた女性の中でも、特に閉経後に高血糖になる人の要因としては、筋肉の量や質の低下が起こる次の3つのことがあげられます。
- インスリン抵抗性の増大
- 全身の筋肉量が少ない
- 筋細胞への脂肪の蓄積
それぞれどのように高血糖に関連しているのか、その理由をみていきましょう。
インスリン抵抗性の増大
1つ目の理由が、インスリン抵抗性の増大です。加齢によって、筋肉量が減り脂肪組織の割合が増加するとインスリン抵抗性が増大します。
また、加齢によってインスリンの分泌量も減るので、特に食後血糖値が上昇しやすくなります。
筋肉量が少ない
高血糖になりやすい2つ目の理由が、筋肉量の少なさです。
食事から摂取したブドウ糖は、エネルギーとして使われるほか、グリコーゲンとして、筋肉や肝臓、脂肪組織に蓄えられて、必要な時に再びブドウ糖として使用されます。
しかし、筋肉が少ない人は食後にブドウ糖を筋肉に蓄えられる量が少なく、血中のブドウ糖濃度が高くなり、高血糖になると考えられています。
筋細胞への脂肪の蓄積
3つ目の理由として考えられるのが、筋細胞への脂肪の蓄積です。インスリン抵抗性が増大しインスリン分泌量も低下すること、さらに消費エネルギーが低下することによって筋細胞内に脂肪が蓄積しやすくなります。
脂肪量が増えることで、さらにエネルギーを消費しにくくなり高血糖を起こしやすくなります。
痩せ型で高血糖以外のリスク
筋肉量の少ない痩せ型では、高血糖以外にもリスクが高くなります。
痩せ型は高血糖以外にも、無月経や骨粗しょう症などのリスクにもつながります。骨粗しょう症になると骨折しやすくなり、高齢者では骨折をきっかけに介護が必要になることも多く、健康寿命が縮まることにつながります。
参考記事:やせた50~60代女性、糖尿病リスク高く
痩せ型糖尿病を予防するには
さて、それではどのように痩せ型糖尿病を予防すれば良いのでしょうか?
筋肉量の少ない痩せ型は栄養摂取の不足、加齢や運動不足による筋肉量や筋力の低下のために起こっており、このような痩せ型の状態を防ぐためには、「栄養バランスの整った適量の食生活」と「筋肉量を増やす・筋肉の質を上げるための運動」の実践が必要です。
栄養摂取の不足の背景
痩せ型の原因となるのは高齢者の低栄養や若い世代の偏った食生活によって、栄養摂取が不足していることがあげられます。
高齢者の場合、食欲の低下や活動量の低下によって食事摂取量が減少することで低栄養となります。すると、サルコペニア(加齢に伴う筋力・筋肉量の減少)につながり、活動量や身体機能の低下、筋力低下をもたらすフレイルへと陥ります。
また、若い女性でもダイエットなどによって極端に炭水化物制限をしていると、必要なブドウ糖を確保するために筋肉が分解され、筋肉の量や質の低下が起こることがあります。たんぱく質の摂取不足の場合、筋肉量の低下につながります。
では、実際に痩せ型の人はどれくらいいるのでしょうか?痩せ型の人の割合と高齢者の低栄養の人の割合をデータで見てみましょう。
瘦せ型(BMI<18.5 kg/m2)の割合
平成18年から平成28年までの10年間において、BMIが18.5 kg/m2未満の男性は4.2~5.0%とほとんど変わっていません。一方、女性は平成18年の痩せ型の割合は9.1%、平成28年は11.6%でした。さらに、20歳代の痩せ型の割合は約20%を占めていました。
厚生労働省の健康日本21では20歳代女性の痩せの者の割合の目標値を15%以下としており、いまだ目標値に届かないほど、20歳代女性の痩せの割合は多いのです。
65歳以上の低栄養傾向(BMI≦20 kg/m2)の割合
平成28年の65歳以上の高齢者の低栄養傾向の人の割合は17.9%(男性12.8%、女性22.0%)で男性は10年間での大きな増減はみられません。
一方、女性は平成18年の16.8%から約5%増加しています。高齢者の中でも、特に女性の低栄養の者の割合が多いことがわかります。
食生活の改善で痩せ型糖尿病を予防しよう
痩せ型の糖尿病を防ぐためには、食生活を改善し適度な運動によって筋肉量の減少を防ぐことが大切です。特に栄養摂取不足の改善を図るには、栄養バランスの整った食事を適量摂ることが大切です。
栄養バランスの整った食事とは、主食(エネルギーとなる米・パン・麺類など)・主菜(良質なたんぱく質や脂質を補える魚・肉・大豆・卵などを使ったメインのおかず)・副菜(ビタミン・ミネラル・食物繊維などを補える野菜を使ったおかず)を毎食バランス良く摂ることを言います。
また、食事の量は食べ過ぎても不足してもよくありません。自分の年齢・体格・身体活動レベルなどに合った適切なエネルギーが摂取できる量を摂るようにしましょう。
農林水産省では1日に必要なエネルギーと食事量の目安が示されています。農林水産省 食事バランスガイド オリジナルトレーマットをぜひ参考にしてみましょう。
適度な運動で痩せ型糖尿病を予防しよう
栄養摂取状態を食生活の見直しによって整えることに加えて、筋肉量を維持するための適度な運動も重要です。
筋肉量を増やすレジスタンス運動とインスリン抵抗性を改善する(筋肉の質を改善する)有酸素運動を組み合わせて行うようにしましょう。
レジスタンス運動
レジスタンス運動とは、筋肉に抵抗をかける動作を繰り返し行う運動のことです。筋力トレーニングが代表的なレジスタンス運動です。スクワット・腕立て伏せ・腹筋・背筋・立ち上がり・足上げ・つま先立ち・ダンベル体操などがあります。
ダンベルなどの器具を使って筋肉に抵抗をかける負荷の大きい筋力トレーニングから、自分の体重をおもりとして椅子に座って太ももを上げる体操や踵を上げる、負荷の小さい筋力トレーニングまでさまざまなレジスタンス運動があります。
有酸素運動
有酸素運動とは身体に酸素を取り込みながら行う運動のことです。ウォーキングやジョギング、階段昇降、ラジオ体操などが有酸素運動としてあげられます。
有酸素運動は、一定時間続けられるペースで持続して行うことがポイントです。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動基準2013」でも、運動の基準として「息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う」と示されています。
一定時間適度なスピードで有酸素運動を続けることで、脂肪量を減少させる効果も期待できます。
参考記事:厚生労働省 健康づくりのための身体活動基準2013
まとめ
いかがでしたか?今回は、意外に多い痩せ型の糖尿病について詳しくみていきました。
糖尿病は肥満の人だけではなく、痩せ型の人でも発症します。特に痩せた閉経後の女性で糖尿病の発症リスクが高いことが研究によってもわかっており、その原因としては筋肉量の減少や筋肉の質の低下が関連していることが考えられています。
日本では痩せ型の女性の割合が多く、今後痩せた女性の糖尿病の発症リスクが高くなることが懸念されています。
痩せ型の背景には栄養摂取不足があることが多く、痩せ型の改善には「栄養バランスの整った食生活」と筋肉の量と質を改善する「レジスタンス運動と有酸素運動との組み合わせ」を実践することが大切です。
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