本記事では透析量の指標であるHDPを高めることでどんなメリットがあるのかについて、わかりやすくお伝えしていきます。
HDPを高めて健康的な生活を実現していきましょう。
透析量の指標、HDP(Hemodialysis Product)を高めることで得られる5つの効果
長時間透析や頻回透析をすることでHDPを高めることができます。(参照:”元気で長生きできる”透析の指標「HDP」)
HDPを上げる透析によって得られる結果は多くありますが、以下の5つの効果にまとめられます。
1.合併症のリスク低減
2.水分や栄養制限の緩和
3.服薬量・薬の種類の減少
4.透析中・透析後の体調不良の緩和
5.ストレスの緩和
この5つです。
では、それぞれ効果を具体的にみていきましょう。
1.高HDPによる合併症リスクを減らせる可能性
合併症の発症リスクは透析不足によって高まります。したがって、しっかりと(長時間や頻回で)透析してHDPを高く保つことにより、水分や毒素の体内への蓄積を抑えることができれば、リスク低減が可能であることは明らかです。
実際に数ある合併症の中で、透析患者の死因トップとされる心不全は、透析の間隔が2日空いた時に起こりやすいことが1990年代終わりに海外で報告されています。これを受けて、週あたりの回数を増やし、中2日を作らないようにする隔日透析が注目されるようになりました。(参考:日本透析医会雑誌 Vol.35 No.2 2020年8月発行 P.381)
ただし、HDPは回数と時間だけで算出される点に注意が必要です。例えば体格の大きい人は小さい人よりもより大きい値であることが望ましいのですが、そうした個人差まではHDPで考慮はされません。したがって、基準となる72以上であれば誰でも合併症を起こさずにすむ、と一概に言えるわけではありません。 この点は留意すべきものがあるものの、患者にあった十分な透析量を確保することが、患者の合併症の防止に重要です。
2.水分や栄養制限の緩和
HDPを高くすることで、透析患者の生活上の大きなストレスである「厳しい食事制限や水分制限」を緩和することが可能です。
高HDP=しっかりと十分な透析ができるということですから、無理な制限をしなくても、余分な水分や毒素が体内に蓄積しにくくなり、その影響による合併症リスクを下げることができるというわけです。
しっかり食べて、十分な栄養を摂り、余分なものはしっかり透析して除去する、この方が健康にいいことは言うまでもありません。
最近では高齢者のフレイル(虚弱)が話題になっています。低栄養や運動不足による筋肉量の減少から、足腰等の運動機能が低下、それがさらなる運動量の減少につながり、寝たきりになるなどして呼吸器、循環器、認知機能に至るまで全身の機能低下、衰弱が起こります。
透析患者においては、一般的な「週3回×1回4時間」では十分な透析はできず、それゆえに厳しい食事制限があるという現状があり、先ほどのフレイルと似たような状態になってしまう可能性があります。
尿毒症を防ぐために仕方ないとはいえ、透析が健康を向上させることにはならないというジレンマが生まれてしまいます。
透析患者の大半は、透析導入前から腎機能の低下を抑えるために厳しい栄養制限が課せられています。そのうえ、透析が開始された後も制約があるのでは、栄養学的に見れば体はボロボロと言っても過言ではありません。
HDPとclinical resultsの関係を示した文献(参照:スクリブなー先生のやつ)の中でもHDPが低いと栄養不足になることが指摘されています。
食欲は人間の基本的な欲求の一つであり、それが満たされないことはとても辛いものです。厳しい食事制限が課せられることで、家族と同じ食事ができない、友達と外食ができないといった普通の日常の楽しみが奪われることにも繋がります。 高HDPを実現することで、健康状態の向上に加えてこのような生活に関するストレスからも解放されるのです。
3.服薬量・薬の種類の減少
透析患者はたくさんの薬を服用しています。毎食後に10錠近くの薬を飲む方もいらっしゃいますが、水分制限されている中では薬を飲むこと自体もストレスとなってしまいます。しかし高HDPが実現されると、薬の量や種類を減らせる可能性があります。
例えば、透析不足や栄養不足による貧血はしっかり透析してしっかり食べれば改善に向かいます。結果として薬を使わなくて済む可能性は高まります。また、カリウムも十分に除去できますので、吸着薬は不要になるのでしょう。皮膚のかゆみなども透析不足から起こる不快な症状ですが、十分な透析を行なうことでそのような症状も回避することができ、こちらもその分薬を減らせる可能性は高まります。 薬が減ることは精神的な負担も軽くします。飲み忘れの心配も少なくなり、何より多量の薬を前にするウンザリすることもありません。高HDPで服薬量が減ることは人生に対して前向きになれることを助けるなど、精神的なメリットも大きいです。
4.透析中・透析後の体調不良の緩和
透析患者さんは透析中に足がつった、息苦しくなった、血圧が下がって意識が遠のいたなどで、急に具合が悪くなり、怖い思いをした経験は誰でも一度はあると思われます。
透析を行うたびに、体内の余分な水分や毒素が短時間で除去され、体内環境が変わります。その変動幅が大きいほど、体にはストレスとなり、先ほどのような様々な体調不良が引き起こされます。
しかし、高HDPを実現できると1回ごとの変動幅は当然小さくなり、体への負担が少なくなることで不調が起こりにくくなると考えられます。 これを一言で表せば「体に優しい透析」です。それが高HDPなら可能になります。
5.ストレスの緩和
このように4つの効果を紹介してきました。
合併症の予防(これはひいては余命の改善につながります)、水分/食事制限の緩和、服薬量の減少、体調不良の緩和、そのどれをとってもストレスの緩和と言えます。
そのため高HDPによる体に優しい透析は透析患者さんをストレスを減らす透析であるとも言えます。
『生命予後が劇的に改善するセルフ透析」の著書の中にはクリニックで実施したストレスに関する調査も掲載しております。
まとめ
高HDPを実現するため、しっかりと透析をすることで透析患者さんが直面する多くの制約やストレスを緩和できる可能性があります。高HDPを実現するために日々の透析量を上げていく取り組みをしていきましょう。
櫻堂渉著 『生命予後が劇的に改善するセルフ透析』 より抜粋
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