糖尿病の合併症のひとつに「糖尿病神経障害」があります。糖尿病網膜症・糖尿病腎症と合わせて、糖尿病の3大合併症とも呼ばれています。
糖尿病神経障害は、糖尿病の初期から見られる合併症です。2007年に行われた国民健康・栄養調査では、糖尿病患者さんの約12%が糖尿病神経障害を発症していました。
日本内科医学会の調査によると、自覚症状のない人まで含めると糖尿病患者さんの約4割が糖尿病神経障害になっているといわれています。
糖尿病患者さんなら、普段から気をつけておかなければいけない糖尿病神経障害。それは一体どんな病気なのでしょうか。
なぜ、糖尿病神経障害が起こるのか?
実は、糖尿病神経障害がどうして起こるのかについては、まだはっきりと分かっていません。
糖尿病になると毛細血管がもろくなり、手足の末梢神経まで血液が行き届きにくくなります。そのため酸素や栄養分が不足して、神経に影響が出るのではないかという説があります。
別の説では、高血糖状態が続くと「ソルビトール」という物質が神経細胞に蓄積し、その結果、感覚が鈍くなるといった症状が起こるのではといわれています。それ以外にも様々な仮説が立てられ、研究が続けられています。
いずれにせよ糖尿病神経障害は手足に痛みやしびれといった症状が現れます。しかし、神経が冒される病気のため感覚が鈍って、自覚症状のないまま悪化してしまうことも。
最悪の場合、ケガをしても気づかず、傷口から細菌に感染し手足が壊死してしまうこともあります。
糖尿病神経症の自覚症状
初期の自覚症状としては、足の裏や指に「ぴりぴり」「じんじん」といったしびれや痛みを感じることがあります。進行すると、手指にもしびれや痛みが現れます。さらに症状が進むと神経は働きを失い、次第に感覚が鈍くなっていきます。
特徴は、症状が両足または両手に同時に現れることです。下記のような症状が左右両方にあったら糖尿病神経障害を疑ってみましょう。
- 手足の先がしびれる
- 手足の先に痛みがある
- よく足が攣る(つる)
- 手足に触れただけで痛みを感じる
- 手足が妙に冷えたり火照ったりする
- 熱いものや冷たいものに触れても温度がよくわからない
- 歩いているとき、布団の上を歩いているような頼りなさを感じる
糖尿病神経障害の治療法
糖尿病神経障害の治療の基本は、血糖コントロールです。糖尿病によって起こる合併症なので、糖尿病が悪化すれば糖尿病神経障害もどんどん進行していきます。
逆に言えば、血糖コントロールがきちんとできるようになれば、糖尿病神経障害も改善する可能性があるのです。
血糖コントロールと同時に投薬での治療も行います。投薬治療には、原因となっている物質に働きかける「原因療法」と症状を和らげる「対症療法」があります。
原因療法
糖尿病神経障害には、神経細胞に溜まるソルビトールという物質が大きく関係していると言われています。ソルビトールを作り出しているのは、アルドース還元酵素という酵素。そのため原因療法では、アルドース還元酵素の働きを抑える阻害薬を投与します。
対症療法
対症療法としては、神経障害性疼痛治療薬・血流改善薬・ビタミン剤などを処方します。場合によっては、症状を和らげる効果のある抗うつ薬や抗てんかん薬などを投与することもあります。
日常で気をつけること
糖尿病神経障害には、糖尿病を改善することがなによりの治療です。まずは血糖値をこまめにチェックして血糖をコントロールする習慣をつけましょう。
糖尿病神経障害が進行すると感覚が鈍くなり、ケガをしても気づかないことがあります。毎日必ず手足の状態を確認し、異常があった場合はすぐに医師の診察を受けてください。
アルコールは神経に及ぼす影響が大きく、タバコは血流を悪化させます。糖尿病神経障害を引き起こさないよう、禁酒禁煙を心がけましょう。
糖尿病神経障害になると、立ちくらみを起こしやすくなります。寝ている姿勢から一気に起き上がったりすると、倒れて事故につながることもあります。長風呂も立ちくらみを起こしやすくなるので、長時間温まるのは控えておきましょう。
まとめ
糖尿病神経障害の治療には、血糖値コントロールが欠かせません。どんなに薬物治療を行ったとしても、血糖値コントロールができていなければ糖尿病神経障害は進行してしまいます。
糖尿病神経障害の初期は自覚症状がまったくない場合もあり、早期発見が難しい病気です。しかし、初期のうちなら十分に改善できる可能性があります。
糖尿病を発症してしまったら、足にしびれや痛みといった異常がないかこまめにチェックしましょう。少しでも不安があったら、すぐに医師に相談してください。