糖尿病は一度発症すると生涯つきあうこととなる病気です。
糖尿病によってかかる医療費は、合併症の有無・発症年齢・治療法によっても差がみられます。特に合併症の数が多く発症した年齢が若いほど、医療費は高くなる傾向にあります。
まずは糖尿病において生涯必要な医療費について具体的にみていきましょう。
糖尿病の生涯医療費はいくら
糖尿病の生涯医療費は一人当たり平均約830万円
米国の調査により、2型糖尿病患者の生涯医療費は、平均約830万円となることが報告されています。糖尿病によって発生する医療費の53%が合併症の治療によるものであることが分かっています。さらに合併症による医療費の57%は血管合併症(冠動脈疾患・脳血管障害)が占めています。
発症年齢別にかかる医療費の違い
糖尿病によって発生する医療費は、発症年齢が若いほど多くかかります。年齢・性別別に生涯の直接医療費の平均をみてみると以下のようになりました。
発症年齢25~44歳
- 男性1,220万円
- 女性1,280万円
発症年齢45~54歳
- 男性1,040万円
- 女性1,080万円
発症年齢55~64歳
- 男性820万円
- 女性840万円
発症年齢65歳以上
- 男性540万円
- 女性550万円
糖尿病を発症する年齢が若いほど治療する期間が長くなる・将来的に重症化しやすいことから、生涯医療費が高くなることが分かります。
女性の方が男性に比べて生涯医療費が高いのは、一般的に女性の方が男性よりも長生きする傾向の影響があることが考えられます。
図2 米国の2型糖尿病の発症年齢別の生涯医療費
合併症の発症が生涯医療費を引き上げる
米国だけでなく日本の医療費の調査研究でも、糖尿病患者の医療費は合併症の数が増えるほど、高くなることが示されています。
糖尿病による生涯医療費をできるだけ少なくするためには、合併症を予防することが重要なのです。
糖尿病の合併症を予防することが医療費削減のカギ
糖尿病患者の場合、生活習慣病(高血圧・脂質異常症・肥満)を併発していたり、合併症としてる網膜症・腎症・神経障害・心筋梗塞などの大血管症を伴うことが珍しくありません。
特に高血圧は糖尿病患者の40~60%が合併しているといわれており、糖尿病腎症や大血管症の発症リスクを高めます。
ひとつ合併症があると、つぎつぎと他の合併症を引き起こす引き金となりかねません。糖尿病の合併症の発症には、以下3つが多く関連しています。
- 糖尿病を発症してからの期間の長さ
- 血糖コントロールの状態
- 経口薬治療やインスリン治療を行っているかどうか
糖尿病を発症してから数十年経過している、血糖コントロールを熱心に行っていない、経口薬治療・インスリン治療を長年行っているという方は、その分合併症のリスクが高くなることを覚えておきましょう。
生涯医療費をできるだけ少なくするためには、糖尿病が軽度のうちからしっかりと血糖コントロールを行い、食事・運動療法に取り組むことで合併症を予防することが最も重要です。
治療によって変わる糖尿病の医療費
糖尿病の治療にかかる医療費は、合併症だけでなく治療の種類によっても異なります。
医療費は、「食事療法と運動療法のみの場合」<「経口薬を服薬している場合」<「インスリン治療をしている場合」の順に高くなります。
以下3つの治療別に医療費を比較した場合、月々必要な医療費にかなり差があることがわかりました。
- 投薬なし
- 2種類の経口薬投与
- インスリン治療+経口薬
「投薬なし」を基準にした場合、「2種類の経口薬治療」はプラス月額2,826円、「インスリン治療+経口薬」はプラス月額7,347円高くなる結果となりました。
生涯医療費を抑えるポイント
ここに更に合併症の治療費用として、例えば「高血圧治療」が加わるとプラス1,260~1,416円、「脂質異常症」の治療が加わるとプラス1,248円、「腎症の治療」が加わるとプラス5,532円医療費が必要となります。
糖尿病の医療費をできるだけ抑えるためには、血糖コントロールをまずはしっかり行うこと・合併症の発症を予防すること・食事療法・運動療法を継続することの3つが大きなポイントとなります。
参考文献:糖尿病の医療費・保険・制度
糖尿病の医療費は増加傾向にある
実は、日本・世界全体で糖尿病にかかる医療費が増加していくことをご存知でしょうか?
世界の糖尿病の医療費
国際糖尿病連合(IDF)によると2017年における世界の医療支出全体の12%は糖尿病関連の医療費が占め、その医療費は7270億ドル(82兆1510億円)にのぼるとされています。
これは、2013年の糖尿病への医療費の約130%にあたり、糖尿病への医療費増加が世界単位で問題視されているのです。
日本の糖尿病の医療費
日本における糖尿病に対する医療費も増加していることが、問題視されています。
国民医療費の概況によると、糖尿病の年間医療費は、平成22年は1兆2,149億円、平成27年には1兆2,356億円であり、5年間で207億円も糖尿病の医療費が増加しています。
図4 糖尿病の年間医療費
この金額は糖尿病の治療にのみにかかる医療費であり、糖尿病の合併症のことを踏まえるとさらに医療費が増えていると言えます。
このように、世界全体で糖尿病患者数が増加しており、年々かかる医療費も増加傾向にあるのです。
参考文献:厚生労働省 国民医療費:結果の概要
糖尿病になる前からの予防が医療費削減に
健診で血糖値の異常が認められた人のうち、43%は10年後には糖尿患者になることが分かっています。
まだ糖尿病を発症していなくても高血糖である人の約半数は将来の医療費が高くなることが約束されているといっても過言ではないのです。糖尿病の人は、血糖値が正常な人に比べて約1.7倍の医療費が将来的にかかることがデータで分かっています。
糖尿病予備群のうちに血糖コントロールを行い、糖尿病を予防することが将来の医療費を増やさない最善の策と言えるでしょう。食事や運動の改善、必要に応じて薬物療法を行うことが、糖尿病・合併症の予防につながります。
将来的な糖尿病の発症を予防すること・糖尿病を悪化させないことが、医療費削減への近道です。
図3 糖尿病の医療費をおさえるためのポイント
まとめ
いかがでしたか?今回は、糖尿病と生涯医療費の関係について詳しくみていきました。
糖尿病患者の生涯医療費は、糖尿病を発症した年齢、治療方法、合併症の有無などによって大きく左右されます
医療費をおさえるためには、まずは糖尿病を発症しないこと・糖尿病を悪化させないこと・合併症を併発しないことが最も重要です。
血糖コントロールを良好に保ち、糖尿病の悪化と合併症の予防に努めるようにしましょう。異常が見つかる前から食事や運動を含めた生活習慣を見直し、医療費の負担を軽減するようにしてくださいね。