食事のコントロールは、糖尿病治療の中でも重要な療法のひとつです。でも、ただ食べる量を減らしたりカロリーを制限するだけではダメ。
大切なのは、体に必要な栄養素を過不足なく摂ることです。では、どんな栄養素をどのくらい摂れば良いのでしょうか?
自分に必要な栄養量を計算しよう
体を維持するためには、エネルギーが必要です。人間は常時、心臓を動かして呼吸をしているのでただ寝ているだけでもエネルギーを消費しています。そのためエネルギーとなる食事量が足りないと、どんどん痩せていってしまうのです。
逆に、摂取する食事量が多すぎると太っていきます。では、人間の体を維持するためには、どのくらいのエネルギーが必要なのでしょうか。
人によって筋肉量も違いますし、毎日どんな仕事や作業をしているのかによっても変わってきます。でも、大まかな必要栄養量は簡単な計算で導き出すことができます。まず最初に、身長に見合った適正体重を求めてみましょう。
一日に必要な栄養量は、以下の流れになります。
- 身長から適正体重を算出
- 適正体重に作業活動強度をかけて算出
適正体重・栄養量の求め方
適正体重の求め方は、身長(m)×身長(m)×22=適正体重(kg)
身長170cmの人なら「1.7×1.7×22=63.58」で、63.58kgが適正体重となりました。この適正体重を基に、1日に必要な栄養量を計算します。
栄養量の求め方は、適正体重(kg)×作業活動強度(kcal)=栄養量(kcal)
作業活動強度は、性別や仕事内容などによって多少上下します。
栄養量の求め方をみてみよう
実際に自分に一日に必要な栄養量を計算してみましょう。作業活動強度は行動量によって以下のようになります。
- 動きの少ない高齢者:25kcal
- 事務職の会社員や主婦など軽労働の人:30kcal
- 肥満傾向の人や工事現場作業員などの重労働者:35kcal
では、作業活動強度を25kcalとして、身長170cmの人の必要栄養量を計算してみましょう。先ほどの例より求めた適正体重と作業活動強度を掛けあわせて「63.58×25=1589.5」で、1589.5kcalとなります。つまり、身長170cmの人が体を維持するために必要な栄養量は、約1600kcalということです。
糖尿病の食事療法では、この必要栄養量を守ることが大切です。必要栄養量を、できるだけ均等に3食に分けて摂りましょう。
5大栄養素にはどんな働きがあるの?
5大栄養素からエネルギーを摂取しよう
さて、一日に摂取するべきエネルギー量の計算方法が分かりましたがそのエネルギーを各栄養素から摂取することになります。
食品に含まれる栄養素は、「炭水化物」「たんぱく質」「脂質」「ビタミン」「ミネラル」の5つに分類されます。これを5大栄養素といいます。それぞれの栄養素は互いに作用しながら、人間の体内でそれぞれの役割を果たしています。
糖尿病の食事療法では、この5大栄要素をバランスよく摂ることが理想とされます。まずは各栄養素について、どんな働きがあるのかみてみましょう。
炭水化物
炭水化物とは、糖質や食物繊維のことで、主食となっている穀物類や芋類・一部の野菜や果物に含まれています。おもに人間が活動するためのエネルギー源となります。
たんぱく質
肉類・魚介類・卵・乳製品・大豆などに含まれています。筋肉、血液、骨といった、人間の体を構成する元となる栄養素です。
脂質
油脂・ごまやアーモンドなどの多脂性食品に含まれています。高エネルギー源である以外に、人間の細胞膜や血液を作るための成分としても重要です。
ビタミン・ミネラル
炭水化物・たんぱく質・脂質がうまく代謝されるようにして、体の調子を整えてる働きをもっています。野菜・海藻・きのこなどに含まれています。
人間の体を維持するためには、この5大栄養素をうまく組み合わせて必要栄養量を摂取しなければなりません。どの栄養素が足りなくても、体はうまく働かなくなってしまうのです。
糖尿病で考えたい栄養素の摂取バランスは?
糖尿病の食事療法では、カロリーや栄養バランスを考えなければいけません。その計算をできるだけ手軽にするために、日本糖尿病学会が「食品交換表」という本を出しています。食品交換表では、食品を6つの表と調味料に分類しています。
そして、それぞれの表について、摂取する目安となる量が決まっています。その範囲内で食品を選べば、簡単に計算できるのです。食品交換表で計算するときは、80kcalを1単位として考えます。これは、日本人の食習慣を踏まえて計算しやすくするためです。1日の必要栄養量が1600kcalの人なら、1日20単位を摂ればいいことになります。
各栄養素のバランスについては、1日の必要栄養量が1600kcalの人ならこのようになっています。
ご飯や小麦粉など主食系・芋類 | 11単位(1単位当たりの目安量:6枚切りの食パン1/2枚、小茶碗約1/2杯) |
果物 | 1単位(1単位当たりの目安量:リンゴ1/2個) |
肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく類 | 4単位(1単位当たりの目安量:卵1つ) |
牛乳・乳製品 | 1.5単位(1単位当たりの目安量:牛乳コップ1杯) |
油脂類 | 1単位(1単位当たりの目安量:バター大さじ約1杯) |
野菜・海草・きのこ類 | 1単位(1単位当たりの目安量:緑黄色野菜なら100g、淡色野菜なら200g) |
食塩・砂糖・醤油・味噌など | 0.5単位(0.5単位当たりの目安量:砂糖小さじ1杯+味噌小さじ2杯) |
糖尿病の患者さんが積極的に摂りたい栄養素
各栄養素をバランスよく摂ることが大切な食事療法。そのなかでも、糖尿病の患者さんがとくに摂取を心がけたい栄養素とは、一体何でしょうか。それはズバリ、ビタミンB1・ビタミンB2・ビタミンC・ビタミンEです。
糖尿病になると、血液中のビタミンB1とビタミンCの濃度が低くなりがちです。糖尿病とは、言い換えれば「脂肪の代謝バランスが崩れた状態」。すると体は、なんとか脂肪の代謝バランスを正常に戻そうとします。そのため、脂肪の代謝機能に働きかけるビタミンB1・B2・Cが減ってしまうのです。糖尿病では、動脈硬化・心疾患・脳梗塞といった合併症の可能性も気になります。
それを予防するには、血中の活性酸素を除去する働きのあるビタミンC・Eが有効です。じつはビタミンCには、活性酸素の除去で失われたビタミンEの働きを復活させる作用もあります。そのため、どちらか一方よりも、ビタミンCとEを一緒に摂る方が効果的です。
ビタミンB1
ビタミンB1を多く含む食品には、豚肉・うなぎ・落花生・青のり・ごま・玄米・小麦胚芽・蕎麦などがあります。
ビタミンB1の特徴は、水に溶けやすく、熱にも弱いということ。そのため調理すると、食品に含まれている量の半分近くが失われてしまうのです。厚生労働省の定めた1日の推奨摂取量は1.4mg。これを豚ヒレ肉で摂るなら、約150gを食べる必要があります。ただ、多く摂取しすぎても、特に問題はありません。
ピタミンB2
ビタミンB2を多く含む食品には、レバー・魚肉ソーセージ・納豆・サバ・イワシ・卵・岩のりなどがあります。厚生労働省の定めた1日の推奨摂取量は1.6mg。
これを豚レバーで摂るなら、約45gを食べる必要があります。ただ、多く摂取しすぎても、特に問題はありません。
ビタミンC
ビタミンCは、柿・オレンジ・ブロッコリー・パセリ・ほうれん草・モロヘイヤ・ゴーヤ・緑茶などの緑黄色野菜や果物類に多く含まれています。
ビタミンCの特徴は、水に溶けやすく、熱にも弱いということ。調理すると、食品に含まれている量の半分近くが失われてしまいます。そのため、できるだけ生で摂りたいものです。厚生労働省の定めた1日の推奨摂取量は100mg。これを柿で摂るなら、約150gを食べる必要があります。
ビタミンCは大量に摂ると、吸収しきれずに排出されてしまいます。そのため人によっては、お腹が下ったりすることもあります。
ビタミンE
ビタミンEを多く含む食品には、アーモンド・モロヘイヤ・ウナギ・カボチャ・アボカド・パプリカなどがあります。ビタミンEは人間の体内で作ることができないので、必要量をすべて食品から摂取しなければなりません。
厚生労働省の定めた1日の推奨摂取量は8mg。これをアーモンドで摂るなら、約25gを食べる必要があります。ただ、多く摂取しすぎても、特に問題はありません。
まとめ
糖尿病の患者さんは、ビタミン類を積極的に摂った方が良いことは事実です。でも、ビタミンを摂ろうと意識するあまり、食事のバランスが崩れてしまっては本末転倒。
最も大切なのは、必要な栄養量を各栄養素からバランスよく摂取すること。糖尿病では摂取制限がある炭水化物や脂質も、全く摂らなければ体を維持することができなくなってしまいます。食事の栄養バランスを保った上で、ビタミン類をサプリメントで補うなどして、健康的な食生活を心がけてみましょう。