医療法人による糖尿病患者のためのコラム2020年11月10日糖尿病治療の万能薬?DPP-4阻害薬の働きと副作用
糖尿病の治療に使われる経口摂取薬(口から摂る薬)のなかで、近年注目されているのがDPP-4阻害薬です。
DPP-4阻害薬が日本で初めて発売されたのは2009年末のこと。まだ開発されて10年も経っていない新薬ですが、すでに多くの患者に処方されています。では、DPP-4阻害薬とはいったいどんな薬なのでしょうか?
DPP-4阻害薬は何に効くの?
DPP-4阻害薬の効果を一言でいうと、「インスリンの働きを高める薬」です。インスリンは血糖値を引き下げるホルモンですが、その作用を強めることで血糖値を安定させることができます。
他にもインスリンの働きを高める薬はありますが、「副作用として低血糖を起こしやすい」という弱点がありました。インスリンの作用を促しながらも低血糖を起こしにくい薬として研究開発されたのがDPP-4阻害薬なのです。
DPP-4阻害薬の働き
健康な人の場合、食事を摂ると体内でインスリンが分泌されます。このインスリンの分泌に大きく関わってくるのが「インクレチン」と呼ばれるホルモンです。
インクレチンにはインスリンの分泌を促す働きがあります。しかし、血糖値が 80mg/dl以下になると作用しなくなるという特徴をもっています。どんなにインクレチンの量が多くても、血糖値が低ければインスリンの分泌を促すことはないというわけです。
インクレチンは分泌された後、血液中でDPP-4という酵素に触れることで分解されますが、このDPP-4の働きを止めてしまうのがDPP-4阻害薬。
DPP-4阻害薬によってDPP-4が働かなくなると、血中のインクレチンの量は増えます。するとインスリンの分泌も高まり、血糖値が引き下げられるのです。
DPP-4阻害薬のメリット・デメリット
これまでの血糖降下剤には、作用が強すぎると低血糖に陥ってしまうというリスクがありました。しかし、DPP-4阻害薬の場合、どんなにインクレチンの血中濃度が高くなっても、血糖値が低ければ働くことはありません。そのため低血糖を起こしにくいというメリットがあります。
また、DPP-4阻害薬はインスリンの分泌に直接働きかける薬ではありません。そのため、他の血糖降下剤の効果に影響を及ぼすことが少なく、併用しやすいという特徴を持っています。
インクレチンは正確に言うと、GLP-1とGIPというホルモンの総称ですが、GLP-1には食欲中枢に作用して食欲を抑える働きがあります。
加えてGLP-1には、ナトリウムの排泄を促す作用もあります。その結果として心臓の負担を和らげて、心臓の筋肉を保護するという効果も期待できます。
DPP-4阻害薬の副作用
万能の新薬のように思えるDPP-4阻害薬ですが、もちろんデメリットもあります。低血糖を起こしにくいDPP-4阻害薬ですが、絶対に起こらないというわけではありません。
その他にも、便秘・空腹・腹部膨満感といった副作用もあります。また稀に起こる重篤な副作用として、急性膵炎・過敏症反応・腸閉塞が報告されています。
DPP-4阻害薬は、どんな人に向いているの?
ご存知のように、糖尿病には1型と2型があります。1型糖尿病は、自己免疫疾患によりその結果インスリンの分泌ができなくなってしまう疾患です。そのため、DPP-4阻害薬でインスリンの分泌を促すインクレチンの血中濃度を高めても、インスリン分泌が全くない患者には効果がありません。
DPP-4阻害薬は、主に、インスリンの分泌はあるもののインスリンの働きが悪くなってしまった2型糖尿病の患者に処方される薬です。
2型糖尿病にとって何よりの治療は、カロリーや栄養バランスを考えた食事と運動によるエネルギー消費です。そういった食事療法や運動療法を行っても効果が見られないとき、DPP-4阻害薬が処方されます。
まとめ
低血糖を起こしにくい血糖降下剤として開発されたDPP-4阻害薬。しかし、まったく副作用がないわけではありません。むやみに服用すれば、それだけリスクも高まります。
先述のように、糖尿病の何よりの治療は食事療法と運動療法です。DPP-4阻害薬を服用しているからといって、無制限に食事を摂っていいわけでもありません。
かかりつけ医師の指導のもと、夢の新薬であるDPP-4阻害薬を上手に利用して、糖尿病を克服していきましょう。
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