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医療法人による糖尿病患者のためのコラム2021年3月30日糖尿病の薬は浄化槽に影響を与える!?本当のトコロを知っておこう

浄化槽とは家庭に設置する汚水処理設備で、下水道を引くことが難しい地域で主に使用されています。トイレの汚水や生活排水をきれいにするための浄化槽ですが、糖尿病患者がいると浄化槽へ悪い影響を与えることが言われています。

糖尿病患者のいる家庭で浄化槽を使用している方々にとっては気になる話ですよね。実際のところ糖尿病であると浄化槽への影響があるのか、どのような対策を取ればよいのかということについて詳しく見ていきましょう。

浄化槽とは

人がトイレやお風呂、台所、洗面所など、生活で使った水は生活排水と言います。生活排水をそのまま流してしまうと、海や川は汚れてしまいます。

そこで、生活で生じる汚れた水は汚水処理施設できれいな水へと変えられて川や海へ流されています。

汚水処理施設には公共の下水道のほかに、農業集落で整備されている農業集落排水施設、下水道が整備されていない地域において各家庭に設置する浄化槽、市町村が団地や集落などに設置するコミュニティプラントなどがあります。

国土交通省によると平成28年度末の汚水処理人口普及率は日本全体で90.4%、その内訳は下水道が78.3%、浄化槽が9.2%、農業集落排水施設が2.8%、コミュニティプラントが0.2%となって言います。

浄化槽の普及率は人口100万人以下の市町村で人口が少ない地域ほど多くなり、5万人未満の市町村での浄化槽の普及率は19.5%となっています。(図1 汚水処理人口普及率 参照)

浄化槽の普及率

図1 汚水処理人口普及率
出典:国土交通省(資料1)汚水処理人口普及率

浄化槽の仕組み

浄化槽は、トイレの汚水や生活排水に混ざる固形物を分離し、溜まった固形物や水の汚れを微生物の働きによって分解します。その後、浮遊物を分離して、塩素剤で水を消毒し、処理された生活排水が放流されます。

浄化槽には処理方法や材質、大きさなどいろいろな種類があり、たくさんのメーカーが取り扱っています。

各家庭に設置した浄化槽で汚水を処理するので、公共の下水道のように下水使用料金はかかりませんが、浄化槽本体の購入と設置にかかる費用が必要となります。定期的な保守点検や清掃、法定検査なども必要です。

浄化槽の種類

浄化槽にはトイレの汚水(尿と糞便)のみを処理できる単独処理浄化槽と、トイレの汚水とその他の生活排水を両方処理できる合併処理浄化槽とがあります。

単独処理浄化槽の場合はトイレの汚水のみを浄化槽で処理し、その他のお風呂や台所、洗面などの生活排水はそのまま川へと流されます。

汚水処理した水質基準はBODという単位で表され、BODの数値が大きくなるほど水質が汚れていることを示しています。

下水道の放流水水質がBOD2mg/L、BOD除去率99%以上に対し、合併処理浄化槽ではBOD20mg/L以下、BOD除去率は90%以上、単独処理浄化槽ではBOD90mg/L以下、BOD除去率60%以上とされています。

浄化槽の歴史

浄化槽についての制度である「浄化槽法」が施行された昭和58年は、日本の下水道の普及率は33.0%でした。我が国の下水道の普及率が70%を超えたのは、今からおよそ10年前の平成18年ごろからです。(グラフ1 下水道処理人口普及率 参照)

下水道処理の普及率

グラフ1 下水道処理人口普及率
出典:国土交通省 下水道処理人口普及率

浄化槽はトイレの汚水のみを処理できる単独浄化槽の設置数が大きく、平成元年になってトイレのみならずお風呂や台所などの生活排水も処理できる合併処理浄化槽がやや増えだしました。

しかし、平成26年度でも設置されている浄化槽のうち、単独処理浄化槽は55%、合併処理浄化槽が45%と単独処理浄化槽が上回っています。(グラフ2 平成26年浄化槽の設置基数 参照)

浄化槽の設置基数

グラフ2 平成26年浄化槽の設置基数
出典:環境省 (資料)平成26年度末における浄化槽の設置状況等について [PDF 391 KB] 

糖尿病と浄化槽の関係

平成21年の環境省の「よりよい水環境のための浄化槽の自己管理マニュアル」の中では、「糖尿病等の病気の方がいらっしゃる場合は、保守点検の方法・頻度や清掃頻度などで対応した方がよい場合もあります。業者に相談してみましょう。」という記載があります。

出典:環境省 「よりよい水環境のための浄化槽の自己管理マニュアル」

糖尿病と浄化槽の関係についてみていきましょう。

糖尿病と浄化槽についての調査報告より

糖尿病患者の尿は独特の臭いがみられ、下水道や浄化槽といった汚水処理が発展していなかったその昔の日本では、し尿汲み取り業者が、その家庭に糖尿病患者がいると発見することも多かったと言います。

昭和62年の単独浄化槽で起こる臭いなどの機能異常を調査した報告では、糖尿病患者のいる家庭でよく見られる臭いなどは、心臓疾患や高血圧の患者がいる家庭や、その他の患者がいない家庭でも見られることがあるとされています。

浄化槽の機能異常がみられる要因としては、糖尿病患者の尿に排泄される糖やその他の代謝物、心臓病、高血圧患者の尿に排泄される代謝物、服用している治療薬の尿中に排泄される代謝物が異常発酵につながっているのではないかと推察されています。

また、平成9年の浄化槽でみられる糖尿による機能障害の発生要因についての報告では、糖尿病患者の尿に含まれる糖類などの有機物が処理過程において負荷が大きくなり、十分に処理できず水質の悪化につながることがあげられています。

ただし、糖尿尿患者の尿に含まれる有機物が浄化槽に与える影響は、単独処理化槽の場合に考えられることであり、合併処理浄化槽の場合にはほとんど影響はないと考えられるとあります。

糖尿病の治療薬に対しては、スルホニル尿素薬、ビグアナイド薬などの経口血糖降下薬については体内で十分代謝され、尿に代謝物として排泄されて浄化槽の微生物の働きに悪影響を与えることはほとんどないであろうとあります。

糖尿病患者が飲む薬とは

2型糖尿病患者の治療薬としてはインスリン抵抗性を改善する作用を持つビクアナイド薬、チアゾリジン薬、インスリンの分泌を促す作用を持つスルホニル尿素薬、グリニド薬、DPP-4阻害薬、糖の吸収を遅らせる作用を持つα-グルコシダーゼ阻害薬、尿中への糖の排泄を促進する作用を持つSGLT2阻害薬などがあります。

これらの糖尿病の治療薬は主に肝臓や腎臓で代謝されるので、糖尿病の治療薬が浄化槽へ及ぼす影響はほとんどないと考えられます。

α-グルコシダーゼ阻害薬のアカルボース、ボグリボースは糞便中に排泄され、SGLT2阻害薬の使用によって有機物である糖の尿中の割合は増えることになります。しかし、実際のところ、糖尿病患者の何が浄化槽に影響を与えているかははっきりとはわかっていないため、薬の服用が浄化槽に影響を与えるということも定かではありません。

浄化槽使用時の注意点

糖尿病患者の有無に関係なく、洗浄水が少なければ浄化槽での汚れの処理過程において負荷が大きくなり、臭いや異常発酵の原因となります。トイレを使用するごとに水を十分に流すことが必要です。

水に溶けるトイレットペーパーは微生物で処理できますが、タバコや新聞紙、オムツなどは処理できないので流すものはトイレットペーパーのみにしましょう。

トイレの洗浄剤も多量に使用すると微生物を死滅させてしまうので、洗浄剤は適量以下とし、水を多めに流して希釈しましょう。塩素系の洗浄剤は使用できません。

抗生物質を服用した際にも尿に含まれた抗生物質が微生物を死滅させてしまうことがあります。いつもと違う臭いなどが見られれば保守点検業者に連絡・相談しましょう。

まとめ

糖尿病患者がいる場合、尿に含まれる有機物などの影響が浄化槽にみられることもあります。

主に単独処理浄化槽の場合に見られ、合併処理浄化槽の場合には、トイレの汚水以外の流入する生活排水の量が多いのでほとんど心配はありません。

単独処理浄化槽の場合にはトイレに行った後はその都度水を流す、トイレの洗浄剤を使用するときは適量以下として水を多く流すようにするなどに注意して使用しましょう。

臭いなど気になる症状が見られた場合には早めに保守点検業者に連絡・相談し、対策をとりましょう。事前に浄化槽の保守点検業者に糖尿病患者がいる旨を伝え、使用上のアドバイスを受けていれば、なお安心して使用することができるでしょう。

必ず主治医の先生にご相談ください。
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