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医療法人による糖尿病患者のためのコラム2024年5月9日人工透析以外に末期腎不全の治療法はある?ない?

末期腎不全の治療として、日本で多く選択されているのは人工透析です。そもそも、腎臓が悪くなったらなぜ人工透析を行わなければいけないのか、その理由をおさらいし、腎臓が悪くなったときの人工透析以外の治療法である「腎移植」について、メリット・デメリットも含めて知っていきましょう。

人工透析をする理由のおさらい

腎臓の働き"

腎臓の働きが低下した状態が慢性的に続く慢性腎臓病(CKD)になると、腎臓から尿として排出されるべき老廃物や水分が体内に蓄積します。むくみが生じた場合には、初期のころは身体に溜まった水分を体外に排出する利尿剤を使用しますが、腎臓の機能がさらに悪化すると、心臓や肺にも水が溜まって呼吸困難や心不全を起こし、命にも関わる状態となります。

また、身体の中に老廃物が多く溜まると尿毒症になり、倦怠感や吐き気、頭痛、食欲低下などの症状もみられるようになります。

電解質の調節、血圧の調整、赤血球の産生を促すエリスロポエチンを作るなどの腎臓のはたらきも悪くなるので、電解質バランスの崩れによる不整脈や高血圧、貧血なども起こりやすい状態です。

腎臓の機能は一度悪くなると、良くなることはありません。腎臓の機能が著しく低下した状態になったままにしておくと、呼吸困難、意識障害、心不全などの重篤な症状が現れ、生命にも関わります。失われた腎臓の機能を補う治療法の一つが人工透析です。

腎代替療法 選択ガイド 2020

透析以外の治療法は「腎移植」があります

腎移植"

悪くなった腎臓の機能を補う治療法は腎代替療法と呼ばれ、血液中の溜まった老廃物や水分、ミネラルを調整するのが透析療法です。透析には、体内の血液を取り出してダイアライザーに通して血液を浄化し、再び体内に戻す血液透析と、お腹の中に透析液を入れて、腹膜を介して血液を浄化する腹膜透析があります。

人工透析以外の治療としては「腎移植」があります。

腎移植は、他人の腎臓を移植する治療法で、生体腎移植と献腎移植があります。生体腎移植とは、配偶者を含む健康な親族の二つの腎臓のうちの一つを提供されて移植する方法です。献腎移植は、脳死、心臓死の方から腎臓の提供を受けて移植する方法です。

2021年における日本での腎移植数は1,773例で生体腎移植が多くを占めています。(出典:日本移植学会 データで見る臓器移植)

一般社団法人 日本移植学会 データで見る臓器移植

腎移植のメリット・デメリット

腎移植"

腎移植は透析療法のように日々の透析や通院、食事や水分の制限が緩和されるので生活の質が向上し、社会復帰もしやすくなります。生命予後も良いと言われていますが、ドナーの確保、年齢、心臓・肺の機能、腎臓提供者との抗体の検査などの条件をクリアする必要があり、誰もが選択できる治療法ではありません。

実際に2021年の人工透析の患者数は約34万9,700人(出典:わが国の慢性透析療法の現況(2021年12月31日現在))に比較して、腎移植の患者数は1,773例(出典:日本移植学会 データで見る臓器移植)で、人工透析を選択する患者が圧倒的に多いことがわかります。

腎移植のメリットとデメリットについてそれぞれみていきましょう。

腎移植のメリット

  • 透析療法に比べると生命予後が良い
  • 社会復帰しやすく、生活の質が改善しやすい
  • 心疾患や血管障害などの合併症が透析療法に比べると起こりにくい
  • 水分や食事の制限が透析療法に比べて少ない
  • 安定していれば、透析療法に比べて通院回数が少なくて済む

腎移植のデメリット

  • だれもが腎移植を行えるわけではない
  • 免疫抑制薬やその他の薬の服用が必要で、副作用もある
  • 腎臓を提供する側も受ける側も手術が必要
  • 感染症の予防が欠かせない
  • 拒絶反応によって腎機能障害が起こる場合がある
  • 透析を再びしなければならない場合はある
  • 移植した腎臓が拒絶や機能低下によって使用できなくなる不安が残る

腎移植は腎臓を提供してくれるドナーが必要であり、移植を行っても拒絶反応が起こるリスクがある等、困難もあります。反面、通常の人工透析にはないメリットがあることも事実です。希望するライフスタイルや環境も考え合わせ、主治医と相談しながら、適切な治療法を選びましょう。

わが国の慢性透析療法の現況(2021 年12月31日現在) 透析会誌55(12):665~723,2022 一般社団法人 日本移植学会 データで見る臓器移植

まとめ

腎臓の機能が著しく悪くなった場合の人工透析以外の治療法として、腎移植があります。人工透析に比べて腎移植は、生活の質の向上や生命予後の良さなどの大きなメリットがありますが、同時にドナーの問題や腎移植の適応条件、腎移植のための手術や拒絶反応のリスクなど、困難な点もあります。どちらの治療法が適切であるかは、患者本人や家族も含めて、その後の生活や身体の状態に合わせて主治医とよく相談したうえで決定していきましょう。

必ず主治医の先生にご相談ください。
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