医療法人による糖尿病患者のためのコラム2021年2月8日リスクが2~3倍に!糖尿病による脳梗塞のリスクと対策を知ろう
脳梗塞は脳の血管が詰まって細胞がダメージを受け、身体の麻痺や感覚障害、言語障害、高次脳機能障害などの後遺症をもたらし、重症になると死に至ることもある病気です。
なんと糖尿病患者さんの場合、脳梗塞のリスクは約2~3倍になるといわれています。脳梗塞には大きく分けて3つタイプがありますが、糖尿病はすべてのタイプの脳梗塞を発症しやすくすることがわかっています。
今回は、脳梗塞とはどのような病気なのか、糖尿病と脳梗塞の関係にと対策について詳しくみていきましょう。
脳梗塞のタイプと症状
糖尿病と脳梗塞の関係についてみる前に、まずは脳梗塞のタイプと症状についてみていきましょう。脳梗塞には大きく分けてラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症の3種類があります。
脳梗塞1:ラクナ梗塞
ラクナ梗塞とは、脳の深部の細い動脈が高血圧によって血管壁が厚くなることや傷つけられることで変性し、動脈が詰まって起こります。直径1.5センチ以下の小さい梗塞であり、脳がダメージを受ける範囲も狭いので、症状は比較的軽症であることが多いです。また、症状がほとんど無い場合も多くあります。
主な症状としては、身体の半身麻痺や感覚鈍麻やしびれ、異常感覚などがみられます。ラクナ梗塞が多発すると、血管性認知症や手足の震え・動作緩慢・筋肉が硬くなる・表情が乏しくなるなどの症状が見られ、パーキンソン症候群につながることもあります。
以前は脳梗塞として最も多いタイプでしたが、最近は減少傾向にあります。
脳梗塞2:アテローム血栓性梗塞
アテローム血栓性梗塞は、脳の表面の太い動脈や頸動脈の動脈硬化が進むことにより、大きな動脈が詰まることによって起こります。動脈硬化により、血管の内腔が狭くなって血液の流れが悪くなることにより、血栓や塞栓ができる場合もあります。
主な症状としては半身麻痺や感覚障害、言語障害などが挙げられます。
脳梗塞3:心原性脳塞栓
心原性脳塞栓は、心臓で血栓ができ、その血栓が脳動脈まで流れて脳の動脈を詰まらせることで発症します。ここ最近では、脳梗塞の中でも心原性脳塞栓を発症する人が増加しています。
重症化することが多く、主な症状としては強い麻痺や感覚障害、言語障害、高次脳機能障害などがみられます。ラクナ梗塞やアテローム血栓性梗塞に比べて意識障害がみられる頻度も多く、死に至ることもあります。
心原性脳塞栓により脳梗塞となり、血栓が流されて再び塞がれていた動脈が開通すると血管が破れて出血しやすくなり、出血性梗塞を起こして症状が悪化することもあります。
グラフ2 脳梗塞のタイプ別の年齢層の割合
出典:山口修平ら 脳卒中データバンクからみた最近の脳卒中の疫学的動向
脳梗塞タイプ別の割合
脳卒中データバンクのデータでは、脳梗塞のタイプ別の割合はアテローム血栓性梗塞(塞栓を含む)が 31%、ラクナ梗塞 が29%、心原性脳塞栓 が26%という結果です。
1999~2000年に実施された大規模国内登録調査(J-MUSIC)では、ラクナ梗塞38.8%、アテローム血栓性脳梗塞33.3%、心原性脳塞栓21.8%、その他6.1%という結果であり、脳卒中データバンクの2012年までのデータと比較するとラクナ梗塞の割合が減少し、心原性脳塞栓が増加しています。
糖尿病での脳梗塞リスクは2~3倍に
脳梗塞のタイプが分かったところで、続いて糖尿病と脳梗塞リスクの関係についてみていきましょう。
脳梗塞発症率について40~69歳の日本人男女を対象として調査では、正常な人に比べて糖尿病患者では脳梗塞発症リスクが2~3倍になることが分かっています。脳梗塞のタイプ別でみると、ラクナ梗塞では2.65倍、大動脈梗塞では2.58倍、塞栓性脳梗塞では3.32倍となっています。
また、以下グラフは、久山町の40~79歳の住民対象とした調査結果です。糖尿病患者の場合、男女ともに脳梗塞の発症率が高くなることが示されました。
耐糖能レベル別(WHO分類)にみた脳梗塞発症率
なぜ糖尿病は脳梗塞リスクが高くなるの?
糖尿病の場合2~3倍脳梗塞リスクが高くなることが分かりましたが、一体なぜ脳梗塞リスクが上がるのでしょうか?糖尿病は、脳梗塞を起こす要因となる動脈硬化を進行させます。実は、このことが脳梗塞リスクを高めることに関係しているのです。一体どういうことなのでしょうか?
糖尿病が動脈硬化を進行させる理由
糖尿病が動脈硬化を進める理由は、高血糖、インスリン抵抗性、高インスリン血症、内臓脂肪型肥満が関係していることがわかっています。
糖尿病に付随して、これらの症状が引き起こされることにより動脈硬化が進行しやすくなるのです。それぞれの症状と動脈硬化の関連性についてみていきましょう。
高血糖と動脈硬化の関係
糖尿病で高血糖の状態が続くと、血管の壁に負担がかかって傷つきやすくなります。傷を治す過程でコレステロールが血管の壁に沈着し、動脈硬化が進行していきます。
インスリン抵抗性・高インスリン血症と動脈硬化の関係
血糖値を下げるホルモンである「インスリン」の効きが悪くなる、インスリン抵抗性がみられると血糖値が上昇し、血糖コントロールが悪くなります。
インスリン抵抗性があると、血糖値を下げようとさらにインスリンが分泌されるようになり、多量のインスリンが分泌されることで高インスリン血症になることがあります。
高インスリン血症を起こすと、血管の壁の細胞が増殖して血管の壁が厚くなり、動脈硬化が進行しやすくなります。さらに体内に塩分が残りやすくなり、高血圧となったり、糖分から脂肪が過剰に作られることで脂質異常症のリスクにもつながります。
内臓脂肪型肥満と動脈硬化の関係
内臓脂肪型肥満の糖尿病患者の場合、インスリン抵抗性が起こりやすいことから、高血糖や高インスリン血症を招くことで動脈硬化を進行させてしまいます。また、内臓脂肪の脂肪細胞自体が動脈硬化を進行させることもわかってきています。
さらに高血圧や脂質異常症、過食・運動不足・喫煙・ストレスなどの生活習慣・加齢が相互作用し合うことで、動脈硬化が進行します。
糖尿病による脳梗塞を防ぐために
糖尿病では動脈硬化を引き起こしやすいことから、脳梗塞のリスクを高めることが分かりました。では、一体どのように脳梗塞を防いでいけば良いのでしょうか?
生活習慣の見直しを
糖尿病患者さんに合併してみられる高血圧や肥満、脂質異常症は、動脈硬化を進行させ、脳梗塞を発症するリスク因子です。高血圧や肥満、脂質異常症、糖尿病はすべて生活習慣から起こる生活習慣病です。
動脈硬化は糖尿病前段階から起こっている
動脈硬化は、糖尿病の前段階である耐糖能異常(正常値よりも血糖値が高め)の時から進行するといわれています。
なかでも、食後高血糖の状態が動脈硬化を進行させることがわかっており、糖尿病予備軍のときから生活習慣を改善することが、脳梗塞予防にもつながります。
肥満がある場合は運動や食事を見直して減量し、喫煙している場合は禁煙しましょう。高血圧、脂質異常症、糖尿病がある場合は食事・運動の見直しを基本に治療を続けることが大切です。
定期的な検診を受けよう
動脈硬化は、身体の中で進行していても自覚症状は現れません。突然、脳梗塞や心筋梗塞として発症するから怖いのです。動脈硬化の進行の程度は、エコー(超⾳波)、レントゲン、CT、ABI などで検査できます。
定期検診をしっかり受けることで健康な状態を維持し、異常が見つかった場合は早目に治療・改善を行うことが脳梗塞防止につながります。特に糖尿病予備群・糖尿病と診断された方は、定期検診をしっかり受け、合併症として脳梗塞を発症しないようにすることが重要です。
まとめ
いかがでしたか。糖尿病は、脳梗塞のリスクを高めることをしっかりと覚えておきましょう。糖尿病も脳梗塞も一度発症すると全身の様々な合併症を引き起こすことがあります。また、ここ最近、脳梗塞の中でも突然死の原因ともなる心原性脳塞栓の割合が増加しています。
糖尿病の三大合併症である腎症、網膜症、神経障害だけに気を付けるのではなく、糖尿病予備軍のときから進行している動脈硬化についてしっかり知っておくようにしましょう。特に生活習慣を改善することが、糖尿病治療と脳梗塞リスク低減両方に効果的なことを覚えておいてくださいね。
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